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ショートショート10月〜5回目

やさしいひと

作者: たかさば
掲載日:2024/10/21

 泉飛田代町内会の森田さんは、とてもやさしい人だ。


 何を言っても穏やかで、怒っているところを見たことがない。

 何を言っても肯定的で、反対する意見を言ったことがない。


 とても付き合いやすくて安心感しかない、みんなに愛されている人…それが森田さんだ。


 あらゆる会合に声がかかり、様々な人が笑顔で出迎える、地域を代表するような魅力的な人。

 子供、大人、老人、色んな世代の人が、あんなやさしい人になりたいと憧れる人。


 だが、俺にとっては…いけ好かない人だ。


 笑顔が、どこそこうさん臭い。

 すべてを受け入れるのが、そこそこ怪しい。


 やさしい……?


 人当たりがいいだけなのでは?

 人付き合いのコツを掌握しているだけなのでは?


 俺が、懐疑的な性格をしているからなのかもしれないが…正直、あまり親密になりたくない。


 たくさんの人と関わっていることもあり、森田さんはあらゆるイベントで引っ張りだこだ。

 森田さんは一人しかいないので、知人に協力を依頼することも多い。

 縁が深くなれば、協力を依頼される可能性が高くなる。


 ……人に囲まれてニコニコしている森田さんを遠巻きに見ながら、人けのないイベントの一角に向かう。


 誰もいない場所で一人で黙々と作業をしているのは、新貝さんだ。


 椎ノ木町北町内会の新貝さんは、とてもこわい人だ。


 何を言っても仏頂面で、怒っているところしか見たことがない。

 何を言っても否定的で、同調する意見を言ったことがない。


 とてもじゃないけど関わり合いたくない、みんなに嫌われている人…それが新貝さんだ。


 あらゆる会合で文句を言い、様々な人がしかめっ面で逃げ出す、地域を代表するような癖のある人。

 子供、大人、老人、色んな世代の人が、あんな人にはなりたくないと敬遠する人。


 だが、俺にとっては…安心感のある人だ。


 誰も言えないようなことでもずばりと言ってくれる、貴重な人。

 自分の意見を堂々と伝える、正直な人。


 こわい……?


 人見知りなだけなのでは?

 人付き合いに慣れていないだけなのでは?


 俺が、裏を読むタイプだからなのかもしれないが…正直、気になる。


 たくさんの人と関わっていないくせに、森田さんはあらゆるイベントに顔を出す。

 森田さんは博識なので、知識が豊富で思わぬ打開策を打ち出すことも多い。

 縁が深くなれば、知見が広がって自分の利となる可能性が高い。


 イベントの資料を睨みつけている新貝さんを発見したので、イベント会場の一角…人けのないブースに向かう。


「新貝さーん!乙でーす!!!」

「なんだそのオツというのは!挨拶はちゃんとしろといつも言っているだろうが!!」


「ねーねー、僕挨拶することになったんだけど、読めって言われた文章が難しくて!!ごめんだけど一回読んでもらってもいい?でもって、フリガナ、ふってー!!」

「なんだそれは!!見せてみろ!!なになに、ご来賓の皆さま…平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます…、…、誰だこんな堅苦しい文章を用意したのは!!集まるのは識者ばかりじゃないんだぞ!!ここは省略だな、こっちは……ブツ、ブツ……」


「へえ、これそんな読み方なんだね、ためになる―!も~さあ、新貝さん読んでよ!!」

「絶対に…やらん!!こんな準備の貧弱なイベント、これ以上関わってたまるか!!俺はここでダメな部分をきっちり記録して叩きつけるまでよ!!」


 口調は荒いが…、どう見ても孤立しているが…、新貝さんは、優しい人だと確信している。


 口うるさいことを言いながらも、なにかあった時のために控えている。

 文句を言っているのではなく、準備不足な点を指摘しているに過ぎない。

 人の反応を見て、自分の意見を飲みこんだり変えることもしない。


 悪印象を持たれようが平気の平左で、思ったことを口にしてくれる人なんて…なかなかいない。


「おい!!長いスピーチがあるんだから、これでも飲んで喉を潤しとけ!!噛んだら…スピーチの本、たんまりと読ませるからな!!」


 差し出されたミルクティーのペットボトルは、少しぬるくなっている。おそらく、すぐ近くにある自動販売機で買って用意していたんだろう、俺が猫舌だって事も知ってるし。

 この前の議会でスピーチが苦手だって話をしたから、読みやすい本を探してきてくれたんだろうなあ、ありがたいことだ。


「新貝さんやさしー!!わーい、ありがとー、僕がんばるね!!!」

「ふん!!早く行け!!」


 への字口ではあるが、少しばかり目が垂れ下がっているから…まあ、機嫌は良さそうだ。


「あっ!!春川さん、司会する前にちょっと荷物運ぶの手伝ってもらっても?」

「ほかにも人員がいるだろう!急いで壇上に上がって息が乱れたらみっともないじゃないか、こいつに余計な作業をやらせるな!そもそも配置がおかしいんだ、なんでこの…」


 小走りでやってきた自治会長に、さっそく厳しい言葉を浴びせる新貝さんがいる。

 やさしいが故の口うるささが炸裂して…人が集まってきた。


「まあまあ、新貝さん。じゃあね、次回は気を付けるようにしましょう。荷物を運ぶのは…あ、あっちに田辺さんの息子さんがいるから頼んできますね」


 やさしいことで定評のある森田さんが、荒れ始めた場をそっと包み込んで、うまくまとめてくれた。


「……フン!!」


 やさしい人であることを認知されていない新貝さんが、和んだ場の雰囲気を…鼻息で吹き飛ばした。


 俺はぬるくて甘いミルクティーを飲み干して…、自分の役目を果たすべく、壇上へと向かった。



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