隙
あの料理長が、わたしを認めた?
「お前らも食べてみろ。美味いぞこれ。」
「うおぉ〜!!」
とてつもない歓声と共に、料理人のみんなが一気に食べ出した。
ここまで喜んでくれたなら、作った甲斐があったのかもしれない。
周りで見ていた料理人も、わたしの作ったサンドイッチに対して言葉を送ってくれる。
「料理長が美味いって言うのいつぶりだ!?」
「マジで美味い!」
「普通のサンドイッチとは違うが、これは傑作だ!!」
"わたしこれからも侍女しようかしら?"
だって礼儀作法を身につけるより、優雅さを身につけるより、ダンスを習うより、こっちの方が断然楽しいしやりがいを感じる。
失敗するたびに鞭を打ってくるあそことは違う。
今は単純に、わたしの料理の腕前が評価されるだけ。
わたしは侯爵令嬢という立ち位置に興味がない。
だから、本当にここの侍女として働きたいと思ってしまう。
ここで公爵とヒロインの仲睦まじく話す姿を、妻という立ち位置でなんて見たくない。
妻としてヒロインと公爵の姿を見てしまえば、柄にもなく寂しいなんてことを思ってしまいそうだから。
1人には慣れてる。だから、そんなしょうもない感情なんて抱かない。
わたしは、…いつだって1人だ。
「お嬢…」
考え事をしていると、料理長が話しかけてきた。
「?」
「どうして、泣いている…?」
"え?わたしが、泣いてる?"
不思議だ。頬を触ると確かに涙が伝っている。
どうしてだろう、別に辛かったわけでも苦しかったわけでもないので理由が分からない。
とりあえず誤魔化さないと、この人たちに隙を見せてしまう。
「ごめんなさい、目にゴミが入っただけですので気にしないでください」
「だが…」
「気にしないでください」
すると、やっと料理長の口が閉じた。
他の料理人も少しだけ心配しているようにも見えた。
先まで敵意しかなかった癖に、わたしに優しくしないでほしい。
関わろうとしないでほしい。
わたしは信頼を得られたらそれで良い。
わざわざ仲間を見つけに来ている訳じゃない。
まだ少し気にしている料理人達との会話を早く終わらすべく、本題に入ることにした。
「それで、この料理はいつも頑張っている方々へ出すのに値する料理ですか?」
わたしは出ている涙を拭って話した。
料理長は申し訳なさそうに言葉を発する。
「もちろんだご令嬢。この料理なら、みんなを笑顔に出来るだろうよ。それから…すまなかった」
「何のことです?料理長が何かしましたか?」
"何でそんな目を見開くのよ。怖いじゃない"
謝ったところでの話なのに、わざわざ謝らなくても良い。
わたしは、謝ったら全て許されると思っている、その思考を持った人間が嫌いだ。
謝って全てが許されるなら、何故わたしは許されなかったのか。
鞭を打たれ続けたのか。聞いてやりたい。
わたしの気持ちを察したのか、料理長は「…いや、何でもない。」と、取り消してくれた。
わたしとしてもそっちの方が良い。
まあ、口調が少し柔らかくなってるところを見ると少しは信頼してくれたと思って良いだろう。
「じゃあわたし、そろそろ掃除に戻ります。みなさんは食べててくださいね」
「えっ、お嬢様は…!」
1人の料理人が聞いてきた。
「……大丈夫です。わたしダイエットしてるんです!どうかみなさんで食べてください。」
もちろん嘘だけど。
わたしが見てる前で食べるなんて気を遣ってしまうだろう。
それに、これ以上気を遣われるのも嫌だ。
早く行こう。
掃除と料理を1週間も続ければ、みんなの信頼はきた時よりは上がるだろう。
そんな思惑の元、わたしはまた掃除を再開した。
見てくださりありがとうございました!もう少し先で挿絵も入れたいと思っているのでそれまで少しお待ちください!