悪夢と楽しい夕食と
ここは、家?
確かガルシア公爵家の邸宅に来たはずなのに、どうしてまたここにいるの?
2度と戻りたくない場所。
ここは、わたしが子供の頃に教育を施されていた部屋だ。
思い出すだけで吐き気がする記憶が蘇ってくる。
『聞いてるのか!』
『っ…申し訳ありません』
これは、わたしの子供の頃だ。
あの頃は、必死に耐えていた。
どれだけ罵倒されても、罵られても、鞭で打たれても、ひたすらに我慢していた。
『だから出来損ないなんだ。お前は』
出来損ないなら、諦めてくれたら良かったのに。
わたしは、鞭を打たれてまで何のために学んでいるのかわからないことをしないといけないの?
「…様!」
『親にすら愛されないなんて………』
その言葉を言わないで。
わたしが1番嫌いで言ってほしくない言葉。
大っ嫌い。
『いや…やめてください。ごめんなさい…!』
「お嬢様!」
「っ!!」
"良かった…夢だ。"
「すみません、酷くうなされていたので」
「どうして謝るの?ありがとう。起こしてくれて。じゃあついでだし、夕食を食べるわ。…ねえリア、わたしと一緒に食べない?」
「えっ、それは…」
どう言ったら納得してくれるだろうか。…あ…あれがあった
あなたが嫌々わたしにつく理由を言えばいい。
自分の性格の悪さに呆れてしまう。
「ほら、わたしのこと監視しないといけないじゃない。食事の時間に部屋を離れたらダメでしょ?だから一緒に食べましょう。わたしも1人は寂しいの」
「…かしこまりました」
良かった、納得してくれて。
せっかくだから一緒に食べたって構わないだろう。
ここでも1人で食べるなんて、そんなのはごめんだ。
それに、ハンナ様には、良い記憶でいっぱいにしてあげたい。
苦しい記憶は、わたしが身体を返す時に全て持っていくから。
地獄でもどこへでも、わたしは別にどうなってもいい。
わたしはわたしのために生に執着してる訳じゃないから。
わたしにとって生きることは苦だ。
「お嬢様、ご夕食お持ちしました」
「ありがとう。じゃあ、お話でもしながら食べましょう?」
侯爵邸では、会話なんてなかったし、そもそも話してくれる人なんて誰もいなかった。
前世では唯一、学校で友達と食べる時が、誰かと一緒に食事をする時だったし。
それも就職してからはなくなったけど。
お昼なんて食べてる暇なかった。
それくらいブラック企業だったのだ。
"どのみちわたしが一緒に人と食事をする機会はなかった。だから、少しくらい良いよね…"
「お嬢様、1つ質問してもよろしいですか?」
「ええ、良いわよ。そもそも、食事の時くらいそんなに堅苦しくしないでいいのよ」
「ありがとうございます。…お嬢様は、何故私に何度もありがとうと言うのですか?」
心から不思議そうな目で見つめてきた。
だが、わたしにとっては当たり前のことで、前世ではそうだったから。
それだけだ。
侍女が会話をしてくれてる。
それだけでどれだけありがたいことか。
この子には、分からないことだと思う。
それでも、少しでも分かってくれたら…
「あなたが、ありがとうと言われるような行動を沢山してくれるからよ。わたしはあなたに感謝してる。だから、ありがとう。」
「…お嬢様。私…お嬢様のことを誤解してました…。噂に気を取られて、本人を見ようともせず…申し訳ありませんでした」
驚いた。まさかもうわたしを信じてくれるなんて。
思ってもみなかった。
まだわたしは何も行動起こしてないけど、信用してくれるに越したことはない。
だからって、リアが信用してくれたからこの屋敷にいる人全員が信じてくれたわけじゃない。
リアが初めからここにいるわたしを見てくれた訳じゃない。
だから、少しだけ仕返し。
「謝らないで。リアは噂じゃなくてここにいるわたしを見てくれてる。それに、こんなことを言わせるために一緒に食事をしたんじゃないわ。だから、普通にお話をしながら食べない?」
「ーーっ…はい…」
「じゃあ次はわたしから質問していい?」
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