#3 「何」
「もしもし?」
僕は恐る恐る対応を試みた。
「杉郷詩生さんの携帯電話で間違いないですね?」
その返事の声はどこか落ち着いている大人な雰囲気の女性の声だった。
「はい、そうですが......」
僕は不安ながらも返事をする。多分知らない人からなのに名前を知られている......?
「今からご自宅の方にスタッフが参ります」
と僕は話を遮られた。そしてぷつっと電話は切られてしまった。一体誰からだったのだろうか。僕は警察じゃないかと思ったけど、警察にお世話になるようなことは何もしていない。きっとなにかの間違いだ。説明すればすぐ帰ってもらえるだろう。
5分後、家のインターホンが鳴った。
「はーい、今行きます」
扉を開くとそこにはスーツを着た男性と女性がいた。
男性の身長は僕よりも高く、180cmは完全に超えているようだった。対して、女性は小柄で可愛らしい見た目をしていた。単刀直入に僕は尋ねた。
「あのー、僕って何かしましたか?」
すると女性はとても驚いたようだった。
「は!?」
(えっ?)
内心僕はこっちのセリフだろうと思いながら、また男性と女性に問いかけた。
「え、警察の方じゃないんですか?」
すると、女性は納得した表情で、隣の男性の体を肘で突っつく。
「あんたが説明してよ」
男性は眉をしかめて嫌そうに返事をする。
「先輩のほうが歴長いでしょ……ったくわかりましたよ」
呆れた表情だった。どうやら、女性の方が先輩らしい。そして男性は僕に真面目な表情で言ってきた。
「えー、素直に言います。我々の組織本部に来てください」
僕は警察でもなさそうな二人に急にわけのわからないことを言われた。急に本部に来てくださいって、何なんだよ。口を半開きにして顔をかしげる僕を見て、男性は更に真面目な表情で言う。
「昨日の23時頃、あなたは団子虫公園で謎の者に襲撃されましたね?」
僕はハッとした。
「はい、なんで知ってるんですか?」
「我々はそのことに関して専門的に取り扱っている組織ですから。あなたにお伝えしたいことがあるのですが詳しくは移動中の車内でお話しますので、車の方に乗ってください」
正直僕は昨日の何かの正体が少し気になっていて、興味もあった。だから、この人たちの車に乗ることにした。
「僕、あの黒い何かの正体が気になります。その正体が知れるということですか?」
小柄な女性は後部座席のドアを開ける。僕は後部座席に乗った。
*
僕が後部座席の窓の外を眺めていると、運転している男性の方が僕に話しかけて来た。
「そういえば自己紹介してなかったな。いきなり名も名乗らず、申し訳ない。私は最内龍斗。これから君とよく関わるであろう人間だ。僕の隣の女性は多比良先輩だ」
「あ、杉郷詩生です」
僕が焦って返すと女性は落ち着いた口調で話す。
「あ、自己紹介は大丈夫だよ。君のことはだいたい把握してるから。で、本題に入るんだけど、君は昨日の夜11時頃、何者かに襲われたんだよね?」
「はい、黒い煙のような青い目をしたやつに......ですけど、僕が叫んだら消えたんです」
僕がそう答えると
「やっぱりか......」
多比良さんは目線を落として呟く。僕はあいつの正体が気になって仕方がない。
「あの黒い煙のようなやつの正体は何なんですか?」
すると、多比良さんは最内さんと目を見合わせ、再び僕の方を見こう答えた。
「あれは蝕徒という人間の感情から生み出されるものだよ。人間の感情を蝕んでいく悪魔みたいなやつでね。蝕徒は人間誰しもが持っている負の感情を利用し、様々な力を使って被害を与えていく。私達は蝕徒をこの世から消すために活動してるんだ。そして君にも、その活動に協力して欲しいと思い訪ねてきたってわけだよ。君にはその力が備わってる」
「力?なんのことですか?」
言われていることが何もわからない僕は尋ねることぐらいしかできない。多比良さんは僕の質問を聞くと、手の平をこちらに向けて最内さんと話し始めた。
「先輩、もう着きますよ」
「あ、ホントだ。杉郷くん、あとで話すね」
「はい......」
ふと窓の外を見てみると、そこは山の中だった。