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一章 5

 翌日。

 俺は短パン姿で体育の授業を受けることになった。

 

「やったら寒そうだね鍵。短パン小僧」

「うるさいぞ」

 

 俺は鼻をこすった。この時期に短パンはちとキツい。

 まぁ昨日の今日で、荻原はジャージを返してくれなかった。

 荻原の性格を考えるとすぐに返してくれそうなものだが、もしかしたら案外忘れていたのかもしれんな。

 

 まぁ、べつに俺は構わんぞ。

 短パンでも、体育の授業は動けば温かくなるからな。

 ただいまの時間は男女ともにグラウンドでサッカーだ。

 

「うおおおっ!」

「すごい! みことちゃんマジすごい! 今日三本目だよ!」

「へへ~、どんなもんだい!」

 

 グラウンドの向こう側では、女子達がサッカーを楽しんでいる。

 ひときわ目立つのは荻原だ。彼女は女子からも人望が厚い。

 おまけにスポーツもうまい。

 言うことない女の子だよな、本当に。

 

「鍵の目が荻原さんに向かうなんて、珍しいね。やっぱり、荻原さんに気があるんじゃない?」

「そんなことはない」

 

 俺は答えた。

 気があるかないかで言われたら、ある。

 最近は交流の機会も増えてきたからな。

 それなりにやり取りも多くなった。


「すっげぇー、荻原の奴! また決めたぜ!」

「お、おい見たか。荻原の胸。め、めっちゃ揺れたぞ……」

「お、おいあんまみんなよ。お前だけのもんじゃねぇんだぞ。しっかしきれいだなー。顔だけじゃなくて、スタイルもいいんだもんなー。尊敬」

 

 男子達が騒ぎ立てる。男子達の会話って、どうしてこんなにもアホらしいんだろうか。

 

「あほらしいな」

「……まぁまぁ。たしかに、彼女いない男子って、やたらと性欲強かったりするかんねー」

「好奇心の塊なんだろ」

「お、鍵にしてはなかなか辛辣だね」

 

 俺は友人の声を、どこ吹く風と聞き流した。

 荻原は俺の見てる前で、またゴールを決めた。ピースサインを、味方の女子達に送る。

 すると、その目がおれの方に向いた。彼女が振り返った先に、たまたま俺がいた、みたいな感じである。

 

 彼女はにこっ、と素晴らしい笑みを浮かべた。多分俺の顔を見て、どや顔をしたのだろう。

 だが隣にいる男子諸君は勘違いしたらしい。

 

「おい! 今おれの方見て微笑んだぞ! 絶対俺のこと好きだ!」

「こ、告ればワンチャン……。いやでも俺の勘違いか!?」

「ばかっ、今のは俺に向けられた笑みだ! お前らなんか振り向いて貰えるかよ!」

 

 正直聞いていてやかましいレベルである。

 

「ちょっと男子、女子の方じろじろ見過ぎ!」

「おうほら見ろ、委員長がお怒りだぞ、こええー。貧乳」

「ちょ……っ、誰が貧乳ですって! もういっぺん言ってみなさい!」

「委員長ー。荻原見習えよなー。荻原はエベレスト級だけど、委員長砂場の山レベルだぜ」

「はっ? はぁああああっ! 言わせておけば!」

「ちょっと委員長。試合、始まるよ」

「うわーん、男子なんか嫌いー!」

 

 おれは思わずクスッと笑ってしまった。いかにも高校生らしいやり取りで、ちょっと見ていて面白かった。

 っていうか砂場の山もけっこうあるぞ。

 

「いいねー、青春だねー」

「お前は高みの見物か? 彼女持ち」

「うーん、そんな感じだねぇ。なんというか、気持ちに焦りがない」

 

 どこかの研究データだが、恋人がいる人はいない人に比べてうつになる率がものすごく低いらしい。

 逆に言えば、恋人がいる奴はそれだけ精神的余裕が得られる、ってわけか。

 まぁわからなくもないな。

 スキンシップはオキシトシンの分泌を高めるとかよく聞くしな。

 

「本当に鍵は恋愛とか興味ないの?」

 

 隣の友人が聞いてくる。

 さてどうだろうな。

 

「わからん。今はまだ、べつにいらない、って感じだな」

「そうか。まぁ無理強いはしないよ。鍵なら意外と作ろうと思えばすぐに恋人作れるだろうし」

「買いかぶりすぎだろ。べつに俺はそんなにモテる方じゃないぞ」

「うーん、教室の隅で縮こまってちゃあねぇ。もうちょっと髪型とか気にすれば、それなりに女の子も寄ってくるとは思うんだけど。目鼻立ち整ってるしね」

 

 そうか……?

 だが同性から言われると言うことは、意外と信憑性がある。これがもし異性からとかだったら、お世辞を言われている可能性もなくはないからな。

 

「あっ、ほら見ろよ!」

 

 たつきが指さす先には、荻原……ではなく男子のサッカー試合だった。

 

「どれだ?」

「ほら、あの一番目立つイケメンクン。めっちゃ女子からチヤホヤされてるだろ」

 

 なるほど。言われてみれば女子の視線はそちらに向いている気がする。

 俺はいわゆる陽キャとは無縁の存在だと思っている。

 そんなに気力がないからな。彼らに近付きたいとか、そんなことは思ってない。

 

「きゃー! 隼人くーん! こっち向いてー!」

 

 隼人と呼ばれた男子は、爽やかな笑顔を女子の方に向けた。

 モテる奴は、オーラ自体が違う。素人目にもわかる。あぁあいつはモテるんだなと。

 

「誰なんだ?」

「うちのクラスの羽柴隼人だよ。あいつサッカー部なのにサッカーの試合出てるなんて反則じゃないのかな」

 

 茶髪の爽やかショートヘアー。スタイルも抜群だ。男子から見ても羨ましいくらいのイケメン男子。

 

「いいのか? お前の彼女も羽柴の方見てなんかソワソワしてるぞ」

「あれはきっと『推し』に向ける目だよ。べつに付き合おうとか、そんなことは考えてないと思う。第一ちかげが浮気するなんて、万が一にもあり得ないよ。ちかげは僕のことが世界で一番好きだからね」

 

 あー。地雷フンだ。のろけ話をまたえんえんと聞かされるハメになりそうだ。

 その日は案の定、たつきの自慢話を聞かされることになった。

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