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四章 4

 鍵視点


 そのあとのことをちょっとだけ語ろう。

 荻原と母親は、一応の和解を終えた。

 荻原には荻原なりの悩みがあり、それは荻原母が娘を遠ざけていたから起こったすれ違いだった。

 

 ひとまずは安心だな。

 おれはそう思った。

 

 オムライスはそのあと全員で食べることになった。

 黒スーツ達と、俺も合わせて食べた。

 うまかったさ、そりゃあな。

 荻原が母親に向けて作ったものだけあって、ものすごい力が籠もっていた。

 

 オムライスに力が籠もっているってなんぞや、って話だけどな。

 だが荻原の気持ちが入っていたことは間違いない。

 オムライスは三分くらいで完食し、皿が空になった。




 ホームに吹き込んでくる風は、田舎特有のそれだった。

 荻原の髪をふわりと持ち上げた風は、田んぼの奥へと流れていく。

 荻原は「ぷはっ」と、まるでサイダーの炭酸が抜けるように笑った。

 その笑顔を、俺は金輪際忘れないだろう。

 

「話はついたのか?」

「んー、まぁぼちぼちって感じ?」

「そうか」

 

 荻原が言う。

 あのあと、俺は部屋をあとにした。

 荻原と、荻原母は二人きりでなにかを話していたらしい。

 主なテーマは、おそらく荻原の今後についてだろう。

 

「学費、大学まで出してくれるってさ」

「よかったな」

 

 荻原が弾けるように笑う。

 俺も釣られて、頬を緩ませた。

 もともと学費は高校まで、という話だった。

 それが大学まで伸びたのだ。

 

「だがいいのか? お金持ちなら、もっと出してくれてもいいような気がするが」

「あー、アタシ、自分から断った。将来進む道は、自分で決めたいし」

「なるほどな」

 

 俺は素直に納得した。

 何とも荻原らしいと言うか何というか。

 

「お母さんに嫌われてない、ってわかったからこそ、親にはできるだけ頼りたくない気持ちが大きくなった」

「……」

 

 荻原はプライドが高い。

 それは母親から受け継いだものだろう。

 そのプライドの高さゆえに、両者反発し合ったわけだが、逆に言えばそのプライドがあるからこそ、荻原のスペックがあるのかもしれない。

 

 家事はカンペキ。学業成績は学年トップ。さらにはスポーツテストでも堂々の一位。

 文句ないヒロインだ。まさにパーフェクトヒロイン。

 俺は正直、こいつに憧れている。

 憧れているが、追いつけないんだろうな、とも思う。

 だが俺にはプライドがない。

 追いつきたいとも、正直思わない。

 

 いつかは、俺は俺の道を歩んで、荻原は荻原の道を歩むのだろう。

 このちっぽけな、田舎のホームで俺は思うのだ。

 荻原が行く道がどこであれ、おれはそれを見届けようと。

 荻原の友達として、隣人として。

 だからそれまでは、近くにいたいと思うのだ。

 荻原がどういう選択をするのか、見てみたい。

 

 青春を表したような青空の下で、おれたちは帰りの電車に乗った。

 電車の中では、俺も荻原も眠りに着いた。

 田舎の電車は居心地がよく、一駅通過した辺りから荻原の寝息が聞こえてきた。

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