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オフジ
―― 部屋を瓶でうめつくしても、床の間は残してある・・・
一段高くなったその場所には、どういうわけか瓶はおかれていない。
そもそもここは客を通す場所なのか?
客に見せるための掛け軸もかかっているが、それに水がかかるのは嫌で、瓶を床の間には置かない?いや、それならばそもそも、この瓶を、掛け軸のある部屋に置かなければ・・・、と、腕をくんでうなってしまう。
すると突然、ヒコイチのそばに立っていた隠居がこちらの着物の袖を強くひき、「あんたさんにも、あのオフジのかわいらしさがわかるんですな?」と、どこかの訛りをのせた言葉をかけてきた。
「あアン?いや、そういうことじゃ・・・・・だれだって?」
いま、女の名がでたような・・・。
ヒコイチの袖をつかんだ男が、オフジですわい、と床の間のほうへと着物を引いてみせる。
そこでようやく、かけられたそれに、女が描かれているのに気づいた。
「 ああ、こりゃあ、 」
たしかに、かなりの美人画だ。