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またぎこす?
腰をのばした男はヒコイチのことがわかっているとでもいうように何度もうなずき、さあさあ、と手招いた。
だが招かれても、瓶がぎっしりと置かれた数段を超えてあがるのはむずかしそうだ。
とりあえず今日は様子見で、このまま帰ろうとおもい、すまねえが、といいかけたら、石畳からこちらを見おろしている隠居が、にっこりとしてまた手招いた。
「さあ、どうぞ。家の中にはもっと、おりますんでねエ」
「・・・はあ・・・」
ヒコイチはいつのまにか、ならんだ瓶を超えていた。
・・おれぁ、・・・跨ぎ越したか?
振り返れば、三段ほどの、瓶でうまった階段がそこにある。
「さあさあ、外は暑いですからねエ。はよぉこちらへ」
石畳の先にある暗い玄関先でにっこりとした男が待っている。
たしかに、夏の西日はきびしい。
さっきの寒気とくらべ、けっきょくは陽射しに負けたヒコイチは暗い日陰をめざした。