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はいりやすい
地味だがいい着物を着てこざっぱりとした様子は、このあたりに住まう隠居の一人だとうかがわせる。
「やはりねえ、リュウキンよりも、この小さなほうがねえ、」 と、こちらによると腰をこごめて、ヒコイチがのぞいていた瓶をゆびさす。
「―― はいりやすいらしくてねえ」
顔をあげ、わらいかけられたヒコイチの首がまた総毛立つ。
入らねえ?この口広の瓶に?
男は西堀の隠居よりはずっと若そうだが、頭は白いものの方が多く、猫が眼をほそめたような笑いかたをする。
「おまえさまも、金魚がお好きですかねエ?」
「いや、おれア、―― 」
好きなわけではない。
ただ、このあたりで《金魚》をいくつもの瓶にいれてる家を、探そうとしていたところだった。
―― ほんとに、ここか?
通りを左右みるが、ほかにこんなに瓶を並べた家はみあたらない。