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しるし
筵が、中のものをぬかれたように、へたり、として、その中から白い粉のようなものがまきあがると、すぐそこではない、むこうの海をめざしてなびき、そのあとをまるでおいかけるよう、袋から刀もとびだした。
ヒコイチは、腰がぬけたというよりも、まだ続いている坊主の経と、月明かりの中、かなたへむかう、白い粉とあかい刀の列が、夢の中のできごとのようで、―― ただ、ぼうぜんと立っていた。
ぽん、と頭をたたかれ、現実にもどる。
手をおいた坊主が妖しいモノであることに気づき、ふりはらってとびのく。
笠の中で笑ってこちらをみる坊主は懐に手をいれると、木片と矢立をとりだし、そこへどっかりと腰をおとした。
すこし目をとじてから、さらさらとなにやら木片にかきだし、これを、『位牌』のかわりにするといい、とヒコイチにわたした。
『・・・なにも、残すなっていわれてる』
『残してはおらん。これは、おまえのための《しるし》であって、じいさまが残すなと言ったものではない。 じいさまを、思い出すな、とは言われてなかろう?』
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