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だすんじゃねえ
黒猫がすとん、と土間におりると、ヒコイチがとめるまえに縁の下へともぐりこんだ。
「だ、だめだ、 やめろ、 だすんじゃねえ!」
暗いそこをのぞきこみ、奥からなにか軽いものをひきずる音が近づいてくるのにわめくが、もうどうにもしようがない。
土間へでてきた猫は、くわえたものを蚊やりのそばに置き、ヒコイチをみあげた。
『―― 『位牌』ってのは、こんな薄暗いとこに置いとくもんじゃあねえのよ。・・・なんで、出さねえ』
ひきずってきた木片を猫は、ちょん、と突く。
「・・・それは・・・、じいさんが、何も残すなって。・・おれにそう頼んでいったからよ・・・」
まるでこどものような心細い声で言い訳してしまう。
「いや、・・・おれは、・・・じいさんに頼まれたとおり、なにも残さねえように海にぜんぶ流そうと思って、 ―― 針棚に・・・車を、 」
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