誰に
蚊やりの煙がたちのぼり、猫はそれを眼で追った。
『・・・あの筆屋の隠居はよウ、掛け軸の女にじゃあなくて、前の持ち主の、『油屋』にとりつかれちまったのよ』
西の方の生まれだと言っていた油屋の年寄りは、掛け軸の女にほれ込み、自分が死んだあとまでが心残りで、《掛け軸にとりついて》しまったのだろう。
『そこにな、 ―― 《猫》がからんできたんで、なんだかおかしなことになっちまったんだろおなあ』
自分がいま『猫』になっている年寄が、ひびの入ったわらいをもらすと、すい、と立ち上がりヒコイチの腕に顔をすりつけた。
『まあよ、ともかく、これで、油屋もおれも心残りがなくなって成仏できらあなア』
「けっ。 油屋の旦那は筆屋の隠居を道連れに、もう掛け軸の中に成仏したじゃねえか。―― てめエは、 まだ、かかんだろうよ」
『そうさなあ。 まあ、ヒコがそんな寂しがるなら、もうすこしいてやるか』
「はあ?だれがだよ」
『そういやあ、ヒコ。おめえ、―― あの《まじない》、だれにおそわった?』
「まじない?」
『方角を違える《まじない》をしてから、瓶屋敷にむかったじゃねえか。 あれをみたから、おめえは無事だとおもったのよ』
西堀までゆき、また戻る。
「いや、ありゃあただ・・・」
―― 死んだじいさんのつまらないことを




