猫二ひき
後ろで突然高い猫の鳴き声がして振り返る。
こんどはそこに縁側があり、黒い猫が尾っぽを立てながらヒコイチにむかってきた。
『おいヒコよ。 ―― おめえ、瓶を割らなかったな』
金色の眼をむけ、しょうがねえなあ、というようにだみ声が言う。
「・・・通れりゃ、いいんだろよ・・・」
なにが、だか、知らないが。
ここに入る前に門のところのいくつかの瓶の中身を全部、隣あった瓶に移しかえたのだ。
『まあいいさ。・・・瓶に水が入ってなきゃたしかに通れるしなア。 あの瓶は、要は《まじない》よ。あれのせいでな、ここには、隠居が招き入れるモンしかはいれなくなっちまったのよ』
さあ さあ こっちへ こっちへ
『まあ、ヒコならあの《まじない》も難なく通って帰れるだろうと思ったんで、教えなかったがよ』
「はあ??てめえ、はじめっからぜんぶっ、」
そこまで言ったとき、ナアアぁぁ、と細い猫の鳴き声が背中のほうでして、ここまでのことをいっきに思い出し、あわてて振り返る。
床の間に立っていた隠居はいない。
ゆらゆらとすこしゆれている掛け軸の中、金魚をくわえた女も消えており、そこにはただ、三毛と虎の猫がよりそうようにして、桶の中にいるリュウキンを眺めていた。