表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

行ってみろ


 黒猫のほうは、このごろようやく、『本物』の猫になったようで、動かなかったガラスの目玉は生き返り、口は指で押しひらいてのぞいたところで、じじいの気持ち悪い唇などどこにもみえない。


 猫に『なった』のは、乾物屋の大旦那だったカンジュウロウというじじいなので、しゃべれば生きていたころと同じ、がさついてひびのいったような声でしゃべる。


 ヒコイチと共通の知人である『西堀の隠居』とよばれるセイベイなどは、「カンジュウロウは図太いから、仏の道を通らずに、猫としてこのままやりなおそうって魂胆なんだろう」とわらった。

 




 みゃあ、などとかわいい猫の鳴き声をだし、むかいの黒猫がごろりと横になる。


『―― なあ、ヒコよお、よっく考えろ。こりゃあ、《お友達の》坊ちゃんも喜ぶはなしのタネだろう?』

 ふん、と鼻先をむけ、猫がみあげる。



「うるせえなあ ―― おれアべつに、わざわざ集めてまわってるわけじゃあねえよ」


 ヒコイチとはちがう世界に生きる『ぼっちゃま』とよばれる男は、文士とよぶ同志たちに金をだして世話をして、《不思議》なはなしがあればなんと、金をだして買い取ってくれる。



『とにかくまあ、夕涼みがてら、ちょいと見に行ってみろって』


「いかねえよ」

 かっつ、と投げられた団扇の柄が窓枠にあたり畳に落ちた。



 ひらり、と干された布団にのった猫が振り返り、『いってみろって』とわざと尾っぽをゆすってみせると、みゃあとひとこえのこして窓のむこうへと消えた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ