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てまねき
確か、まえにも『ちいさなほうが』『はいりやすい』というようなことを言っていて、そのときなんだか、――
「さあ、どうぞ」
口調がうってかわった隠居に手招きされた。
ぞわり
寒くなった首に手をやったら、さあさあ、と玄関にむかう隠居のあとについている。
・・・跨ぎ越してなんか、いねエ
今も、あのときも。
ヒコイチは瓶をまたいだ覚えはない。
「どうしました?」
ささ、どうぞ、と手招きする男は、あのときと同じように猫が眼をほそめたような笑いをうかべ、手招いた。
ぞわり
今度は家にあがった覚えもないのに、あの床の間の部屋にいる。
むこうの板の間には、前よりさらに、ぎっちりと瓶が並べられている。
寒気より、怖気がまさった。
もどろうとおもいたち、ヒコイチはそれに背をむけた。
―― なのに。
部屋には背をむけたはずなのに、そこに縁側はなく、目の前にはまた、床の間の部屋がある。




