またしても
「 ―― なんでエ・・ったくよ・・・」
つまらない思い出が、夢よりあざやかによみがえった中に放り込まれていたら、またしても、西堀に着いていて、またしても、すこし戻ることになる。
じいさんの墓はないとおぼっちゃんが聞いたら、なんと返すだろうか?
まあ、なんといわれても作るつもりはないが。
このまえよりも早くに出てきたので、まだ陽は高く、影は足元に濃い。
風も通らない蒸した、あのひと気のない路地を歩く。
だが今日は、並んだ家の窓からこちらをのぞく目は感じない。
すぐに瓶のならぶ家が目にはいった。
この前より増えていることもないし、減ってもいないようなそれをのぞいてみる。
中には変わらず小さなハスと赤い金魚がいる。
これを蹴り割るのはいいが、割って水がこぼれれば魚は死ぬ。
「・・・・・・」
それは、ヒコイチにはできない。
「 やはり、かわいいもんは、見飽きませんなア 」
「 っつ!? 」
またしても、気配もなく男が門のむこうに立っていた。
「 このまえ、いつも買う金魚屋が間違えてリュウキンなんぞよこしましてなア、こっちのほうが見場がいいなんぞ、勝手なことを 」
いきなり怒ったような口調になり、はいらん、とゆうてるのに、と足もとの瓶をのぞきこむ。




