また行ってみろ
「婿さんが坊主をつれて入ろうとしたら、塩まかれたってのを近所のみんなみてたらしいな」
『それでよけいに話がひろまったのよ』
「まあ、たしかに、あれじゃそう思うのはしかたがねえだろうが・・・」
『なんでぇ、ヒコはその《隠居にとりついた》女の画をみたんだろうよ?』
「ああ、みたけど、よお・・・」
たしかに、なんともいえない雰囲気を感じたのは確かだが、いつものように嫌な寒気をおぼえたのは・・・、
―― なにもあの掛け軸を前にしたときじゃあ、ねえよなア・・・
描かれた女をじっくりとみてから、・・・なんだかどっかでみたことが・・・・・
言葉をにごしてだまりこんだヒコイチを、足をそろえ、きゅうに首だけあげた黒猫が、黙ってじっとみつめる。
その金色の目玉と、ただ目をあわせるのもむずかゆいようで、「なんでエ・・」言いたいことがあんなら言ってみろい、と腕をくむ。
黒猫はふいにまた力をぬき、だらけたように顔を畳におとすと、『そうさなあ・・』と考えるように窓のむこうの空をみあげてから、鼻先をヒコイチにむけた。
『 あと二日したらよ、また行ってみろい 』
「はあ?瓶屋敷にまた行けってか?」
そうしてまた、あの男が《掛け軸の女》に猫なで声をだすのを見るのか?