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瓶(かめ)屋敷と掛け軸のはなし  作者: ぽすしち


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寒かろう


 娘が言うには、描かれている女は、亡くなった母親、つまり隠居の妻であった女とも、とても似つかないという。


 はじめ噂を客から耳にしたときは、驚いたが恥ずかしいというよりは、隠居するまで商売一筋のまじめすぎた父が、最後になってすこし楽しい遊びをおぼえたのか、くらいに考えていた。


 だが、実際に隠居所を訪れたとき、そのの女をやさしげにながめる父親に、なんだか無性に―― 腹が立った。


 しかも季節がめぐり、秋も終わろうというころにもまだ、床の間に《あの女》がいる。


 つい、大きな声で、もうこんな掛け軸じゃあ寒くて季節にも合いやしないし恥ずかしい、いいかげん目をさましてほしい、と責めるように言いおき帰ってから、やはり言い過ぎたかと思い直し、日をあらためて様子をみにいった。

 


 父親はこちらが詫びる前に、「おまえのおかげでなア、」とこちらの手を両手でとり、包み込むようにすると、あの部屋の床の間前に娘をたたせ、それを示した。



  「オフジも寒かろうゆうのに、ようやっとおもいあたってなア」 


 

 いつからか、耳慣れないどこかのクニなまりをのせるようになった口調で、満足げにしめされた掛け軸に目をやり、娘は言葉よりも息を飲み込んだ。



 金魚の網を持つ女は、その画の中で、―― 冬用の羽織をまとっていた。



 冬用に《女の姿を羽織を着るように描きなおした》掛け軸を、これでもぉ寒くもないやろオ、と眺める父親が、 もう自分の知る父ではないのだと、ようやくそこで気づいた娘は、 それからは、隠居の顔をみていない。




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