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掛け軸の女を囲う
《瓶屋敷》にいたあの男は、元はこのあたりでいちばん大きな筆屋の主人で、おのれでも書はやるが画のほうはまったく興味もないようだったのに、店を娘の婿につがせてこちらへ移り住んですぐ、どこかから買ったという《掛け軸》を、隠居どころに呼ぶ人たちへみせてこう言った。
このオフジがわたくしが初めて囲った女でございましてねエ、なにしろ金もそれほどかかりませんし、かわいくてしかたないのですわぁ
この話があっというまえにひろがり、初めは《 掛け軸の女を囲う筆屋の元旦那 》などと粋なシャレになるのか、それともただのしみったれなのか、と楽し気にうわさしていた隠居仲間や取引のあった画家たちも、―― しばらく様子をみるうちに、口を閉ざした。
ありゃあ、あの掛け軸にとりつかれちまったんだ
店を継いだ婿が、懇意にしている書家にこぼしたという。




