第三話 イレギュラー
現在、北アフリカで戦争が発生しているのは、ユーラシア大陸へと続く人工島が設置されている元リビアである。また、ディセンターは何故か世界各地の元世界遺産に集まること傾向があり、ここリビアにおいては「レプティス・マグナの考古遺跡」・「キュレネの考古遺跡」の2か所が戦闘場所になっているらしい。
アルジェからは、レプティス・マグナの考古遺跡が近いため、サンタールは先にそこへ向かうことにした。空中道路を走る車「スカイウェイ」を利用してアルジェから約2時間半をかけてサンタールはレプティス・マグナ駅へと到着した。すでに時は12時を回っていたため、真上から太陽がサンタールを激しく照らしていた。
(初めて来たけど、リビアは砂漠が多いし2000年経っても景色があんまり変わっていないのかな。元々駅の周りに建物がほとんどないし、この辺は昔からあまり人が来なかったんだろう。駅から遺跡までは歩いて30分くらいかかるらしいし、そこの店で昼ご飯を食べてから向かうことにするか)
遺跡では戦争が発生している中で昼食を取ろうとするのはのんきかもしれないが、栄養補給も大切な戦闘準備である。サンタールは駅の近くに開いていた店に入った。
サンタールは適当に注文をし、早急に昼食を済ませて外に出た。
歩いて移籍へと向かう道中、サンタールは人が自分の降りた駅のほうへ走って逃げてきていることに気づいた。尋常ではないその様子を見て、サンタールはその原因となっている場所へと向かった。そこではディセンターと北アフリカ支部の兵士が戦闘を繰り広げていた。
(思ったよりも人口道路に近い場所で戦闘が起きているな。人口道路にはディセンターが出現しにくいってことで、多くの人類は道路付近に定住している。このまま放置するのは危険だ。俺も先頭に加勢するか!)
「俺も加勢します!」サンタールは腰につけていた革袋からゲノム銃を取り出す。ゲノム銃は放射線を放つことでディセンターの体内の電子を本来の軌道からはじき出すことで遺伝子構造ごと破壊し、しとめることができるようにした、持ち運ぶことができるものでは現人類最強の銃である。ただ、戦闘を行う人はたいてい、近接武器も持っている。
「なんだ君は!?兵士でないのであれば下がりなさい!」ディセンターと交戦している兵士の1人がサンタールに向けて警告する。
「大丈夫です!ディセンターに関しては観察を繰り返しているおかげで弱点も戦い方も理解しています!」サンタールは自信満々に伝える。
「どうなっても知らないぞ?」
兵士の置き言葉を無視して、サンタールはディセンターとの戦闘に加わる。ディセンターは特殊な鉱石でできた武器を使用する。武器の硬度は地球に存在するすべての武器よりも硬く、武器本体を破壊することはできないため、ディセンター本体を討伐するほか戦いは終わらない。
サンタールはディセンターと人類との戦争を止めるために旅をしている。それでもなぜ、ディセンターとの戦闘に加勢したのか。長い時間ディセンターを観察したことで、すでに自我を失っているディセンターには何もすることができず、討伐するほかないということを知っていたからだ。そもそも人を直接襲うディセンターはそのほとんどに自我がなく、サンタールもそういった個体に関しては躊躇なく討伐を行ってきている。そのような個体を「イレギュラー」と人類は呼んでいる。
ディセンターは人類よりも若干背丈が高く、ガタイも大きい。ただ、特徴は人類にとても似ていて、もちろん人類同様背後からの攻撃に弱い。この弱点を利用してサンタールをはじめとした兵士たちは攻撃を行う。
目の前では、ディセンターの持つ鞭によって兵士がまとめて屠られている。鞭のような広範囲への攻撃を行うことができる武器を持っている個体はとても厄介だ。サンタールはディセンターの目を掻い潜って背後へと回り、銃を撃つ。これを何度も繰り返した。ディセンターは遺伝子崩壊に対しても徐々に抵抗できるようになってきているため、1度銃を当てただけでは倒れない。もちろん、首を切断すればディセンターを倒すことができるが、体格に差がある個体の場合は不可能だ。
30分ほど繰り返すとディセンターはやっと力を失ってその場に倒れた。兵士たちは直ちに「アンチバクテリアミスト」をディセンターと自身の体に振りかける。サンタールも先頭の後は毎回行うようにしているが、いったい何のためにやっているのかを理解している人はあまりいない。どうやらアメリカの一部地域で始まった慣習が全世界に伝播しているようだ。
「加勢してくれて助かった。ありがとうな」兵士はサンタールに対して頭を下げる。
「いえいえ、こうなってしまった世界ではお互いに助け合うしかないんです。お礼はいりませんよ」
サンタールはディセンターを討伐してその場をすぐに離れ、移籍へと向かった。
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途中で休憩したこともあり、午後2時半ごろになってサンタールはレプティス・マグナの考古遺跡に到達した。事前情報通り、遺跡には300人ほどの兵士が30体ほどのディセンターと戦闘を繰り広げていた。世界貿易機関は空中や地上など様々な手段でディセンターに対して攻撃を行い、常に優勢な状況を作り出していた。
(すごいな。ここまでディセンターを圧倒しているとなると俺が参加する必要はないな。ん?あの個体は・・・。)
サンタールは遺跡端にある柱の陰から先頭の様子を眺めているディセンターを発見した。
(おそらくあれはイレギュラーではない。攻撃を行おうとしている兵士たちを止めないと)
サンタールは急いでその個体の元へと向かう。ただ、サンタールが止める前に1人の女性が兵士たちの前に立ちふさがった。
「やめてください!この個体は人類の殺戮を目的としていません!見たらわかるように攻撃の意思がないじゃないですか。なぜわざわざ殺そうとするんですか!?」兵士の前にいる女性は兵士たちに対して熱弁をふるう。
「またお前か!お前の言いたいこともわかるが、その個体がいつあいつらのようになるかわからないんだぞ!」そう言って兵士はイレギュラーを指さす。
「イレギュラーになって人を殺したら、お前は責任を取れるのか?フロート」
「そんなもしもの話は分かりません。ただ、私は今起きているこの虐殺に納得できないだけです。私もわかっています。イレギュラーのように救われない個体がいることも。だから私はこの個体のように無害な個体のみの虐殺を止めているんです。どうしてわかっていただけないんですか!?」
「おまえの言いたいことはわかるが、人類に害を与える可能性があるならば排除しないといけないんだ」
(どこの地域でも世界防衛機関の兵士は同じ志を持っているんだな。この点には感心だが、やはり戦う意思のないディセンターまで殺すことには納得できない)
「フロート、お前がどうして求めるのなら好きにするといい。ただ、俺たちにも立場と責任がある。だから悪いがそこをどいてもらうことになる」
フロートと呼ばれる女性の前には2人の兵士がいる。その片方がフロートと刃を交え、その隙にもう1人の兵士がディセンターを狙った。
「だめ。やめてあげて!その個体は!」フロートが兵士を相手にしながら叫んだ。兵士の剣がディセンターに向けられる。そしてその件がディセンターに向かって振り下ろされた。
カキンッッ!!
鋼がぶつかった音があたりに響く。兵士の剣を受け止めたのはもちろんサンタールだ。
「俺もこの個体を殺すのには反対です!敵意がないならわざわざ殺さなくていいじゃないですか!」
「誰だ君は、次から次へと」
その時、空中から世界防衛機関の兵士に対して号令がかかる。
「世界防衛機関の兵士たちに連絡する。ある程度のディセンターを討伐することができたため、A隊・B隊以外の部隊は1度撤退すること。以上だ」
その号令を聞いてサンタールたちが対峙していた兵士も武器を収めた。
「君たちのやりたいことはわかる。ただ、マイノリティとして今後もこのような行動をとると注目を浴びることになる」
兵士は置き言葉とともに撤退した。
「あ、ありがとう。その個体を助けてくれて。私はフロート。あなたは?」
「俺はサンタールといいます。この個体は開放しますが、よろしいですね?」
「ええ、いいと思う」
サンタールはその答えを聞いて、個体に遠くへ逃げるよう促した。個体はその合図を理解したのか、遺跡から離れるように逃げて行った。
「フロートさん、俺はあなたと話がしたくて南アフリカから来ました。あなたも、真実の記憶の継承者ですよね?」
「南アフリカ?そんなに遠くから来てくれたのね。真実の記憶というものかはわからないけど、私の家に受け継がれている記憶は確かにあるわ」
「やっぱり。実は俺、真実の記憶を継承している人を探す旅をしているんです。それが将来的にこの戦争を終わらせることにつながると信じているから」
「え、記憶が戦争を終わらせることができるの?私、この戦争を終わらせたい!そういうことなら私の受け継いだ記憶をあなたに教えるわ!ただ、一度家に帰ってもいいかしら?」
「もちろんいいですが、それなら俺は、駅で待っていますので準備ができたら来ていただいてもいいですか?」
「何を言っているの?サンタールもうちに来るのよ」
「え?どうしてですか?俺は別にフロートさんの休息を邪魔したいわけではないので、そちらの都合に合わせますよ」
「めんどくさいなあ、ほら、いくよ!」
フロートはサンタールの手を引いて駅の近くにあるという家に向かった。
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