第二話 アルジェにて
2分されたアフリカ大陸も、人口道路によってつながっている。世界中どこの人口道路にもディセンターは出現しない傾向にある。それ故に、人類は大陸間の移動に関しては円滑に行うことができていた。
サンタールも人口道路を利用して世界防衛機関北アフリカ支部へと移動している最中である。
サンタールの目的地は元アルジェリアの首都アルジェ付近である。海綿上昇の影響でアルジェの70%は海に沈んでしまっているが、その高所では多くの人が生活を送っている。サンタールがアルジェに向かったのには理由がある。アルジェは現アフリカ大陸の中で最も人口が多い都市であり、自分以外にも真実の記憶を継承している人物がいる可能性が高いからだ。
(俺が知っている真実の記憶は明らかにすべての記憶ではない。記憶の最後には6分の6って書いてあることだし、6人いると考えるのが妥当だろう。父さんはこの数字に関して様々な憶測を立てていたが、実際に戦争が起きてしまっている今考えれば明らかだ。もうすぐアルジェに到着する。町でいろいろな人に話を聞いて、記憶の継承者らしき人がいないか探すことにしよう)
サンタールは、自宅を出てから5時間ほどでアルジェに到着した。現在、人類のおもな移動手段は空中道路であり、空中道路内では時速700キロを出すことができる車が毎分出発している。人類の科学技術は2000年の時を経て急成長し、時空に対しての干渉やより高度な電機関連技術を獲得した。今まさにこの車を利用してアルジェまで来たのだ。
アフリカ大陸は人工島から最も離れている大陸ということもあり、大陸全体的にディセンターの出現率が低かった。そのため、戦前の光景が今も維持されている場所が多い。
サンタールはアルジェ中心部の宿を確保し、荷物を置いた後、アフリカ大陸で最も巨大とされるアルジェ国立図書館へと向かった。
図書館という名前ではあるが、ここでは戸籍の登録や郵便の配送・受取も受け付けているため、役所的な立ち位置となっていた。もちろんここには掲示板や情報屋といった個人の情報をやり取りすることができる場所も存在する。サンタールはこのような情報源を辿ることで、自分以外の真実の記憶の継承者に近づこうとしている。
サンタールは掲示板ゾーンと呼ばれる、様々な人がそれぞれの目的に即した提示を行う場所に来た。およそ2メートルほどの電子掲示板には100を超える掲示があり、その内容はまばらである。
(迷子の猫を探していほしい、家の再建を手伝ってほしい、話し相手になってほしい、か。ほかにも似たような掲示が多いな。もしかしたらここを探していても記憶の継承者は見つからないかもしれないな。いや、もう少し探してみるか)
サンタールは電子掲示板を隅から隅まで見たが、記憶の継承者を探しているというような掲示物はなかった。少し期待はしていたが、サンタールは腰を落として宿へと向かった。
その途中、何やらアルジェの兵士たちが会話しているのが聞こえ、サンタールは耳を澄ませて聞くことにした。
「今日はどうだった?」
「ああ、いつもに比べてディセンターの数は少なかったぜ。おかげさまでこうして早めにアルジェに帰ってくることができたからな。でもな、いつものようにフロートが戦いをやめろと俺たち兵士に伝えて回っていた。あいつのめげない精神は尊敬するが、戦争をやめるかどうかは俺らの一存で決められることじゃないしな。もし本気なら防衛軍長のところまで行って直談判するしかないだろ」
「そうか、またあいつが・・・。まあ、お前の言う通り、俺達にはどうすることもできないな。よし、今から一杯行かないか?」
「お、いいぜ。お前のおごりで頼む」
2人の兵士は楽しそうな笑い声をあげながら酒場へと向かって歩いて行った。
(なんだって!?俺と同じようにこの戦争を止めようとしている人がやっぱりここにもいるんだ。兵士たちの会話から、その人は毎日ディセンターとの戦争の現場に顔を出して直接兵士たちに停戦を呼び掛けている。よし、それなら明日、俺も線上に向かって直接その人と話してみることにするか)
サンタールは有益な情報を得られたことに満足し、宿に帰って眠りにつくのだった。
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