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くぜ

 ぜザ、ザザ、く、、ザザザザくザ、ザザザ、ぜザザくザザぜ



 段々とノイズの中に混じる別の音を耳が拾い始めた。

 

 ――ぜ、く?

 

 唯一ノイズ以外に聞き取れる音。 だがもちろん全く意味など分からない。



 くザザ、ぜくザぜザザザ、くぜザくぜくザザザザ



「あ」


 それからしばらく歩き続けノイズが晴れていく中、誰かが声を漏らした。何かを見つけたその声は照らされた灯りの先を示していた。まだ少し遠いが初めて闇が晴れた。最奥部だ。


「おい嘘だろ嘘だろおい」



 くぜくぜくざくザぜくぜくザくぜくぜザザくぜくぜくぜ



「何で…」

「無理無理無理、無理だよ何あれ」

 

 皆の恐怖がピークを迎えようとしていた。



 くぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜ



 変わらずノイズがかってはいるが、訳の分からない念仏のように繰り返される音は、耳で認識出来る声となって容赦なく雪崩れ込んできた。

 聞こえ続ける声の意味も分からず、奥にあるものの意味も分からず、何一つ理解できない状況は一気に僕達の恐怖を加速させた。 

 

 なのにじりじりと僕は前に進んだ。


「お、おい智也行くなって」


 和彦が僕を止めている。でも僕は止まらなかった。


「ダメだって智也!」


 宗太郎の声は震えている。でも僕は止まらなかった。


「智也やめろ」


 修一の声はこんな時でも落ち着いていた。でも僕は止まらなかった。

 そして誰も本当の意味では止めなかった。声をかけるだけで、僕に腕を伸ばして掴んで止める事もしなかった。だから僕は止まらなかった。ゆっくりと僕はそれに近づいていった。



 くぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜ



 念仏のように低くうねるように流れる声。それがどうしてどこか機械的に聞こえノイズがかっていたのか。

 ひどく場違いな存在だった。僕はそれに光を当てる。


 ラジカセ。古いラジカセがそこにあった。くぜくぜくぜくぜと流れるこの音は、そのラジカセからずっと流れ続けていた。

 どこかに周波数が合わされているのか、はたまたセットされたテープから流されているのか。いずれにしてもどこにも差さっていない電源コードは地面にだらんと死んだように垂れていた。だから鳴るはずもないのに、僕は当然のように「ああ、あれから流れてるんだ」と全く疑問も疑念も持たなかった。


 それだけならまだ良かった。問題はその横にいる者だった。


“洞窟の奥にはバケモノがいる”


 違う。バケモノではない。あれは人だ。人間だ。人間であったものだ。そして直感的に頭に浮かんだのは、あれは人間を超えようとしている者に見えた。

 

 ラジカセの横にいたのは、胡坐をかいたミイラだった。

 

 恐怖なのか。今僕が感じているものは恐怖なのか。

 もはやそれすら分からない。ただ今僕は、彼、もしくは彼女に魅入っている。

 おそらく今、僕は笑っている。


「智也!」


 大きな声と共に自分の身体がぐんっと後ろに引っ張られた。途端現実に引き戻されたように惚けた思考が一気に振り払われた。


「出るぞ! ここはやっぱり入っちゃダメな場所だ!」


 誰かがそう叫んでいる。

 和彦、宗太郎、修一。

 僕は彼らに元来た道を引きずられるように運ばれていく。


 ――あれは、一体……。


 


 くぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜくぜ



 

 声が遠く離れていく。

 僕は一体何を見たのか。何を聞いているのか。

 僕の意識はそこで途切れた。

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