94.僕の目的は復讐
「このくらいの対策はしておかないとねぇ~」
ノガワは、自分の椅子の周りに色々と置いていく。
そして、良さそうなモノを幾つか、椅子の裏に貼り付けた。
ナイフやペン、銀色のボールなど、その種類は様々。
「次は、………脱出経路も確保しておいた方が良いかな」
椅子に貼り付ける作業が終わると、今度は窓に近づいて、その下に日版を置いておく。
何かあったときのために、すぐに窓から逃げられるようにするのだ。
ーーもしかしたら、僕のことが信用できなくて、殺そうとしてくるかも知れないからね。防衛用の道具だったり、脱出経路だけはちゃんと確保しないと。
心の中でそう思いつつ、顔では笑顔を貼り付けている。
だが、その心の中には、少しだけさみしさがあった。
しかし、ノガワがその気持ちに目を向けることはない。
ーー僕の目的は復讐。魔王軍の皆と仲良くなることじゃない。……それを忘れたら、いけないよね。
そんなことをして、ある程度準備が出来たら、ノガワは椅子に座る。
そして、少し震える手でカップを取った。
彼とて、死ぬことが怖くないわけではない。
ーーふぅ~。緊張するなぁ~。………でも、これは必要なこと。やっとかなきゃいけないことなんだよね。
そう思い、無理矢理焦りや緊張を押し込み、表面に余裕の笑みを浮かべる。
そうしながら数分が経過し、数十分が経過し、そして、
コンコンッ!
ーーっ!きたっ!
ついに、運命の時が来た。
「どうぞぉ」
ノガワは、できるだけ脳天気そうに声をかける。
すると、
「し、失礼します」
そう言いながら、入ってきたのは魔王。
そして、その後ろに四天王とその副官が続いている。
ーーうぅん。最初から攻撃してくると言うこともなし。逃亡を防ぐために窓に近づくと言うこともなし。
「まあ、取り敢えずどうぞ」
ノガワは気を抜くことなく向かいの椅子をさす。
魔王は緊張したような顔で椅子へと座った。
ーーどこかで仕掛けてくる?何も無いとは思わないけど、何か来るならすぐに!
ノガワも部屋も、緊張が最高にタッしたその瞬間、
「チュゥ!」
「え!?ラウス!?」
ノガワの胸元から。ラウスが飛び出した。
ーー何でここで出てきたの!?死にかねないんだけど!?
そんなの側の心配はよそに、
「チュチュチュチュッ!チュゥゥゥゥ!!!」
ラウスは魔王たちを前に、激しく鳴き続ける。
ノガワはその様子に、困惑する。
が、
「なるほど。これが、例の」
「そうニャ~。今は、ラウスって名前なのニャ~」
魔王や四天王たちが、揃ってラウスを眺める。
その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいるモノも数名。
ーーうわぁ。完全に僕が蚊帳の外だよ。さっきまで、あれだけ張り詰めた空気だったのに、僕が外に出された瞬間、こんなに和むのかぁ~。………もしかしなくても、僕って邪魔だった?
ノガワは、激しくネガティブな思考になりかけた。
「あっ。ノ、じゃなくて、ダイナ君。私は信用するニャ~」
「私もぉ、信用するわぁ~」
「ん、あ、ああ。ありがとぉ~」
ノガワは苦笑しつつ礼を言った。
よく分からないが、信用して貰えたようだ。
ーーラウスが関係してるんだろうけど、よく分かんないなぁ~。
ノガワが諦めの境地に這い出したところで、彼女たちが集まって、ラウスと何やら話をし始めた。
ラウスの言葉が分かるらしいゼラナやキキラが、通訳のようなことをしているようだ。
だが、詳しい会話の内容までは聞こえてこない。
ーーなんか、楽しんだり懐かしく思ったり、ちょっと怒ったり。そんな感じの感情は伝わってくるけど。
ノガワが伝わってくる感情に、更に首をかしげていると、どんどん時は流れ。
数十分経ったところで、魔王が、
「ダイナさん。あなたを信用しましょう。よくよく考えてみれば、私たちが全員記憶を変えられたのだとしたら、もう勝ち目はないですからね。こうやって疑えている時点で、何もしていないと言うことなのでしょう」
魔王は、そんなスキルを使われたらどうしようもない、という諦めを含んだよう言った。
確かに、そこまで強い相手なら、機嫌を損ねないように何かしている方が得策かも知れない。
ーーまあ、僕はその得策とは真逆の行動をしようとしてるんだけどねぇ。強い相手に刃を向けるなんて、僕は随分と愚かだよねぇ~。
「そんなに信用して欲しいとも言わないよ。こんな能力持ってるなんて言ったら、皆疑うだろうから。でも、だからこそ、僕を仕事に送り出して欲しいよね。怪しい僕は、中に入れずに外にいさせた方が心も楽でしょ?」
「な、なるほど。よく考えられた提案ですね。……分かりました。では、容疑が晴れるまで、東側で活動して貰いましょうか。東側が取れれば、疑う必要などなくなりますし」
疑う必要は無くなる。
つまり、自分たちが何かされていたとしても、もうそこまで行けばひっくり返すことが出来ないので、魔王軍は勝利する。
と言うことがいいたいのだろう。
「うぅ~ん。了解。それじゃあ、頑張ってくるよ。………じゃあ、ルティアーヤ」
「っ!?な、何だ?」
突然話しかけられたルティアーヤは、困惑したような表情を見せる。
そこで、何の話か分かりやすくしつつ、
「前回言ってた、僕に加護をかけるやつ。コレが終わったら宜しくね」
「あ、ああ。そういえば、それがあったな。……すまない。そうさせて貰おう」




