9.悪く思ってねぇんだよ
覚悟の札が盗まれてから数日後。
やっと出発の許可が下りた。
ただ、なくなった覚悟の札が出てきたわけではない。
「何処行ったんだろうなぁ。覚悟の札とか、聞く限りなくすとかなりマズいモノだと思うんだけど」
クラスメイトたちは、覚悟の札の行方で盛り上がっている。
因みに、現在物資運搬中だ。
ノガワは会話には参加せず、ずっと後ろから誰かにぶつかられないか警戒していた。
ーー会話せず、目立たず、転ばず。これで、僕は物資運搬を続けられる。………何てことはないよね。
ノガワはそう思って、チラリと先輩の兵士たちを見た。
兵士たちは苦しそうな顔をしているが、その体からは汗一滴出てきていない。
ーー体力増加系のスキルがあるのは分かったけど、入手条件が分からないし。この人たちは大事なところを話してくれないんだよねぇ。夜は酒が入ってるし、口は軽くなってるはずなんだけど。
「お前ら!うるせぇぞ!」
「「「すいません!!」」」
隊長が怒鳴り、クラスメイトたちは謝る。
何回ヤルのかと思うくらい頻繁にあるいつもの流れだ。
ここまでは。
「お前もだ!何他人みたいな顔してやがる!!」
隊長が怖い顔をしながらノガワを見る。
ついに、ノガワまで矛先が向いたのだ。
ーー普段は関係ないときには絶対怒らない人なんだけどな。この感じを考えると、普段兵士が言ってることは本当って事か。
「はいはい。ごめんねぇ」
ノガワは適当に謝っておく。
こんな事をしたら目立つのも当たり前なのだが、今回の側は目立つことを許容した。
相手の心を見るために、
「お前!ふざけているのか!!」
隊長はノガワの胸ぐらを掴み、睨み付ける。
ノガワはその目をじっと見つめ返した。
しばらく睨み合いが続く。
「………ちっ」
十数秒睨み合い、先に折れたのは隊長だった。
掴んでいたノガワを横に放り、ノガワがバランスをとれずに転ぶところを見てきびすを返した。
その背中には、どこか焦りのようなモノが見えた。
「だ、大丈夫か?」
「ノガワ。何やってんだよ」
「大丈夫。ちょっと、隊長の機嫌が悪いってわけでもなさそうだから、何か事情があるんじゃないかなって思って」
ノガワはとりあえず嘘でも本当でもないことを言っておく。
それから、隊長へ視線を向ける。
その表情は、どこか悔しさがにじみ出ている。
ーーこの人自体は、優しい人なんだろうな。だから、僕たちが前線に行くことに内心だと反対?
「……お前ら。罰として、荷物追加だ。他の奴らから1つずつ荷物を貰え」
「「「は、はい……」」」
絶望したような表情でクラスメイトたちは返事をする。
隊長は、その様子に満足したようで笑顔だった。
ーーん?笑顔が引きつってない。つまり、いじめるのは好きなの?それとも、僕の予測は外れてるのかな?
「おら。お前は3つ追加だ」
「え!?……ぐええぇぇぇ!!」
重い荷物を増やされ、ノガワは押しつぶされそうになった。
ただ、そんな状況でも観察は続ける。
ーーやっぱり楽しそう。これは、本格的に僕たちのことを心配しているとかではなさそうだね。
「それじゃあ、急げ!後れを取りもどすぞ!」
「「「はい!!!」」」
それからノガワたちは
数時間に1回くらいのペースで荷物を増やされながら、荷物の運搬を行った。
そして、数日すると、
「つ、着いたぁぁぁ~!!!!!」
目的へ到着。
やっと重い荷物とおさらばできるのである。
まあ、本部に戻ればまた運ばなければならなくなるわけだが。
「よっしゃあぁぁぁ!!!!」
「うるせぇ!!!」
ゴンッ!
と、鈍い音がする。
あまりのうれしさに叫んでいたクラスメイトが、隊長に殴られたのである。
ーーあれは本当にうるさそうな表情だった。でも、殴った後の表情は割と楽しげ?
観察を続けるノガワ。
かなり隊長のことは疑っているが、それでもまだ完全に信用していないわけではなかった。
が、その思いは裏切られることとなる。
「ギャハハッハッ!!!」
「うめぇ!やっぱ、一仕事した後の酒は最高だぜ!!!!」
夜。
ノガワはいつものように食料をあさりながら、兵士たちの話を盗み聞きしていた。
そこでの、とある会話。
それは、偶然兵士たちが出した話題から発展したモノで、
「隊長はぁ、あの異世界のバカたちのことをどう思ってるんですかぁ?」
その質問は、ノガワの1番気になっていることだった。
日頃馬鹿にされているためあまり好きな相手ではないが、この瞬間ばかりは、
ーーナイスだよ!名前知らない兵士君!!
「ん~。どう思ってるかぁ?俺はなぁ、そんなにあいつらのこと悪く思ってねぇんだよ」
「え?マジですか?」
「あぁ。俺たちの荷物持たせて楽できるし、暴力を振るっても文句1ついわねぇ。最高のストレス発散道具だぜ。俺としては、もっと手元に置いておきたかったんだよ。本部も、1人くらい残すの許してくれりゃあいいのによぉ」
嫌ですよね。パワハラ上司