88.殺さなければならなかったかも知れない
「エルフはちゃんと簡易人側と争ってくれてるみたいだけど、今どうなってるのぉ?」
「今は、取り敢えず簡易人側の領地から脱出するため、私たちと協力して脱出ルートを開けようとしている」
「ほぇ~。その辺の協力は出来るんだ」
ノガワは、ルティアーヤから現在の状況を聞いている。
状況が、ノガワの予定と変わっていた場合、すぐに修正しなければならない。
ーーこういう情報って、コロコロ変わるからねぇ。こまめに聞いておかないと。
「じゃあ、ハーピーの方はどうなってるの?」
「お前の言ったとおり医療物資の運搬に入れたら、少しずつ魔王軍内部からも受け入れられてきている。しかも、半年ほど戦場に出なくて良くなった」
「おぉっ!じゃあ、ついにやったんだね!?」
ハーピーが半年戦場に出なくて良くなる条件。
それは勿論、
「ああ。勇者が、戦場に出てこなくなった」
「うぅ~ん。それはよかったよ、流石に、同郷の子たちを殺しちゃうのは忍びなかったからねぇ」
これ以上戦場で活躍するようであれば、殺さなければならなかったかも知れない。
その可能性がなくなっただけでも、大きな価値がある。
勿論、勇者が出なくなったことは、戦場にも影響を与えるだろう。
では、どうして勇者が戦場へ出てこなくなったのか。
その理由は、ハーピーたちが迫ってくるという悪夢のような日々だけでなく、もう1つ原因があった。
それを知るには、少し時間を遡る必要がある。
「……うっ。もう、朝、か」
はきのない声でそう言いながら、勇者であるレンドウは立ち上がった。
ただ、その動きもどこか重い。
相変わらずハーピーの特攻に悩まされ、寝不足なのだ。
「た、大変だ!」
そんなレンドウの下に、仲間の1人がやってくる。
大柄の男子生徒。
彼は、重戦士という職業に就く、カザマだ。
「ど、どうした?」
「タ、タケグチがいなくなったんだ!」
「な、何だと!?」
レンドウは目を見開き、驚愕の声を出す。
タケグチというのは同じく勇者パーティーのメンバーの1人で、テイマーの職業に就いている女子生徒。
そんな勇者パーティーのメンバーがいなくなったということは、
「誘拐か!?」
「……いや。そうでもないみたいなんだ」
カザマは目線を落とした。
その様子と発言に、レンドウは違和感を憶える。
「なら、なんでタケグチはいなくなったんだ?」
「もう、戦うことが嫌になったらしい。こんな手紙も、置いてあった」
そんな言葉と共に、カザマは1枚の紙をレンドウに投げ渡した。
レンドウはそれを受け取り、書いてある文字に目を通す。
そこに書いてあるのは、
「《もう耐えられない。毎日人が沢山死んで、私たちを殺そうとする人が沢山いて。私たちがこの世界を救う必要なんて無いのに、何で私たちが戦わなきゃいけないのか分からない。ごめんなさい》…………な、何だコレ?」
レンドウは紙に書いてあったことを音読し、困惑する。
その様子を見て、カザマは頭を押さえつつ、
「それが、タケグチの机の上に置いてあったんだとさ」
「な、何だよ。じゃあ、タケグチは、戦いに絶えられなくなって、逃げたって言うのか!?」
「……そうだよ」
カザマは暗い表情で言う。
その様子にレンドウは激しい怒りを感じたが、仲間に暴力を振るうわけにも行かないので、ぐっとこらえる。
それから、
「もしかしたら、魔族が書いた偽物かも知れないじゃないか!極悪非道な魔族たちならやりそうなことだろ!」
「いや、筆跡もタケグチのモノで間違いない。そして、極めつけに、同じテントで寝てたアマガワが、タケグチがテントを抜けていくところを見たそうだ。その後、コレを見つけたんだとさ」
「う、嘘だろ」
レンドウは絶望するような表情を見せる。
今まで一緒に高め合ってきた仲間が消えてしまったのだ。
そんなことは信じられないし、信じたくもない。
「まあいい。今から皆で話し合いをするから、アマガワさんのテントに来いよ!」
「え!あっ!ちょ!?」
レンドウの台詞は聞かず、カザマは行ってしまった。
その背中が消えた後も、宙を呆然としばらく見続ける。
そして、正気を取り戻すと、
「……行くか」
覇気の無い声で言った。
ふらふらとした足取りで歩きつつ、テントへ向かう。
その心の中では、困惑や焦り、怒りや悲しみといった、様々な感情が渦巻いていた。
「……入るぞ」
「おお!レンドウ来たか!座れ」
カザマが近くの椅子を指さす。
すでに、テントの中には、レンドウと例のタケグチ以外の全ての勇者パーティーのメンバーが集まっていた。
そのうちの半数が不安げな顔をしており、もう半分はいつも通りな表情をしている。
「それじゃあ、話し合いましょうかぁ。私たちの今後について」
レンドウが椅子に座ると、聖女のアマガワが司会進行を始めた。
普段はレンドウが率先して話し合いの中心となるのだが、アマガワは今のレンドウが使い物にならないと判断したようだ。
アマガワが議題を伝えると、
「ま、待ってくれ。アマガワが出て行くタケグチを見たっていうのは本当なのか?」




