83.ただ頭良さそうに見せたいがための、ムダだとしか思えない専門用語
「……勇者があまり最前で兵を引っ張るといった行動をしないため、簡易人側は士気がかなり低下している」
「それに加えて、エルフの簡易人側からの脱出に協力できることになったのだ。これで、間にある簡易人側の領地を挟み打ちすることが出来るのだ」
「そ、そうですかぁ。ほとんどノガワさん、いえ、ダイナさんの考えていたとおりになりましたね」
魔王が、ルティアーヤとリユーニアから報告を受ける。
今回の変化で、1番と行って良いほど良い影響を受けたのが魔王軍だった。
敵の士気は落ちるし、1部の敵が裏切るし。
良いことづくめといった感じである。
「ハーピーの方も、救護班に入れたおかげで兵士たちとは仲良く出来ているようだし、市民から受け入れられるようになるのも時間の問題だろう」
「それに、遠距離攻撃の得意なエルフが敵からいなくなることで、更にハーピーの戦力としての有用性が高まるのだ。さらに進軍速度は速められそうなのだ」
「そ、それは良かったですぅ。この戦争を終わらせられる日も、近いかも知れませんね」
そう言って、魔王は少し遠い目をした。
彼女が思い出すのは、まだ戦争が始まった初期の頃の記憶。
今まで長年作り上げてきた協力関係を打ち切り、攻撃を仕掛けてきた簡易人側に激しい怒りを感じたモノだった。
「……いつの間にか、簡易人に怒りを感じなくなってしまいましたね」
「そうだな。最初の頃は、あの者たちを殺された怒りもあったはずなんだが……」
「今となっては、友人が殺された怒りすら消えてしまったのだ。あまりにも、時が経ちすぎてしまったのだ」
3人は揃って窓の外を見た。
星々が瞬く夜空のどこかに、消えてしまった友人たちが残っているのではないか。
そんな思いもこみ上げてくる。
「……そ、そろそろ寝ましょうか。明日も働かなければなりませんし」
「そうだな。こんなにしんみりしていても、あの者たちは喜ばないだろ」
「では、お休みなのだ」
3人は解散した。
きっと、明日はもっと忙しいから。
そして、その忙しさを乗り越えた先には、求め続けたモノがあるはずだから。
………。
次の日。
「……ん~」
ノガワは起きて、伸びをした。
窓からは、明るい日差しが入り込んできている。
ーー夜の間にまた火事が起こるとかもなかったんだねぇ。良かったぁ。
「チュゥ~」
「っ。おはようラウス」
最近活躍の機会が少ないラウスも顔を出した。
昨日は大量の串焼きを食べさせたので、今は激しく空腹であるということはないだ。
ーーえ?何?激しくではないだけで、普通にお腹はすいてる?……そ、そっかぁ。まあ、朝ご飯は貰えるだろうから、ちょっと待ってね。
ノガワはラウスの食欲に苦笑しつつ、部屋から出る。
朝食をとるために、食堂へと向かうのだ。
ノガワがそこまで足を運んでみると、
「あ、あれ?誰もいない?」
ノガワは首をかしげた。
記憶している限り、そこそこの数の宿泊者はいたはずだ。
だが、食堂には誰1人としてまだいない。
「ああ。坊主。おはよう」
後ろから掛かる声。
ノガワが振り返ると、そこには宿の店員の姿が。
「他の客はまだ全員酔い潰れてるぞ」
「ん?おはよぉ~。そうなんだ。皆外で寝てるのかぁ」
それならば納得だ。
確かに、昨日は村人だけでなく宿泊客も、無料で酒が飲めると言うことで大量に飲んでいた。
ーーあれだけ飲めば、まだ起きるのは辛いよねぇ。
「お兄さんは酔い潰れなかったの?」
「ああ。俺はあんまり酒は好きじゃないからな。よく付き合いの悪い奴とかそれでも男かとか言われるが、あんな外で寝る奴らよりはマシだ」
「ふふふっ。そうだねぇ。外で寝てたら、風邪引いちゃいそうだよ。ここのベットと違って寝心地も悪そうだし」
さりげなくお世辞も混ぜておく。
すると、機嫌を良くしたことが丸わかりな笑みを店員は浮かべて、
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!そんな坊主には、今日の朝食サービスしてやるよ!!……人のいない食堂で食うのさびしいだろ?今日は特別に部屋で食って良いから、部屋に戻ってな。出来たら持ってくから」
「本当?ありがとぉ~。楽しみにしてるねぇ」
ノガワは礼を言って部屋へと戻る。
その間、少し暇だったので、
ーーあっ。そういえば、貰った本が色々あったね。絶対分からないけど、取り敢えず見てみるかぁ。
パラパラ。
本をめくっていく。
そして、
パタンッ!
2秒で閉じた。
ーーえ?何今の?理解が出来なさすぎて、思わず閉じちゃったんだけど。
もう1度恐る恐る開いてみる。
だが、ダメだった。
流石に超最上級なだけあって、ただ頭良さそうに見せたいがための、ムダだとしか思えない専門用語のオンパレードで、ノガワには理解が難しいのだ。
ーー基本が、基本が知りたいよ!誰か僕に魔法を基礎から教えて!!
ノガワはそう重い、頭を抱える。
が、当然誰も分かるモノなどおらず、魔王城に帰るまで習得することは敵わないのであった。
それからしばらくすすると朝食が来て、ノガワはラウスと共にそれを食べる。
そして、やっと起きた二日酔いのモノたちに別れを告げ、新たな村へ旅立った。
ーーバイバイ。ここの村も、いい村だったけど、………もう2度と来ることは出来ないだろうなぁ。




