82.目先の欲に溺れてしまったモノたちへの罰なのだろうか
「……ふわぁぁぁ~」
ノガワはあくびをした。
その周りには、沢山の人々が倒れている。
ーーうぅん。皆も酔い潰れちゃったねぇ。
「もう寝ちゃおうかぁ」
ノガワはベットのある宿へと向かった。
今日もかなりの村人と話すことも出来たので、成果としては十分だろう。
ーーさてさて、今日は結構簡易人側に影響のあった日だと思うけど、……皆、大丈夫かな?
ノガワはこの影響が、知り合いたちにどのような影響を与えるか考える。
だが、眠かったので、そこまで深くは考えることもなかったし、できなかった。
ただ、今日という日が、明らかに状況を大きく変化させる転機となったのは間違いない。
その要素の1つとして、勇者の存在がある。
勇者であるレンドウは、現在前線で戦っている最中だ。
そして、今はノガワと同じく寝ようとしているが、
「うっ。………寝れない」
彼は幾ら寝袋の中で目をつむっていても寝ることが出来なかった。
目をつむると、浮かんでくるのは、
『よくも娘をォォ!!!!』
『お前のせいで妻はぁぁぁ!!!!』
『この裏切り者ぉぉぉ!!!!』
恨みの言葉を叫びながら、特攻を仕掛けてくるハーピーたちの姿。
全身を槍で串刺しにされても、他の兵士は完全に無視して、レンドウたちだけに襲いかかってくる。
そして、その次に思い浮かぶのは、
『お母さぁぁぁぁん!!!!!』
血を流す母親を抱きしめ、泣き叫ぶハーピーの子供の姿。
そして、そこに無慈悲な鉄の剣を振り下ろす、自分の姿。
目をつむればいくつもの後悔と恐怖が沸き起こり、近頃はほとんど眠れていない。
そんな状況は、勇者パーティーのほとんどのモノがそうだった。
寝不足の影響もあって、前線に出ても反応がおくれることも多くなってきている。
死にかけたことも、最近は数回では収まらない。
「俺は勇者。俺は勇者なんだよ。正義のために、戦ってるはずなのに……」
彼は寝袋の中、自分に確かめるように呟く。
そうしていると、さらに後悔の念が湧き上がっていた。
最近はこのループに陥って、心はズタズタだ。
「……も、もう、イヤだよ。戦いたく、ない」
それが今の彼の本心だった。
ボロボロの心と体で、戦場に向かうことすら億劫。
だが、それでも彼が戦場に縛られているのは、
「で、でも、それでも俺は勇者なんだ。俺が戦わないと、沢山の人が、不幸に」
勇者としての使命と責任。
それが彼を戦場に縛り付けている。
だが、それももう限界が近づいていた。
そのことを知るものは、簡易人側には1人として存在しない。
そして、変化していたのは勿論勇者だけではない。
とある町の様子も変化していた。
その町は、ノガワが数日前に行った村で、
「誰だ!誰が俺の金を盗みやがったんだ!!」
男の怒鳴り声が聞こえる。
それを聞きながら、笑みを浮かべるモノが2人。
ノガワが泊まった宿の店員と、その知り合いである聖都の観光案内を売っていた女性だ。
「今日も、バレずに盗めたな」
「そうだね。エルフとの戦いで沢山人が出てるおかげで、盗みに入っても全然バレない」
「ああ。最高の稼ぎ時だな。……ただ、あの家のおっさんが帰ってきてるのは予想外だったけど」
「うんうん。まさか。膝に矢を受けて帰ってきてるなんて」
2人は、戦いのために沢山の人が村を出ている今、人のいない家へ盗みに入っているのだ。
それはこの2人に限ったことではなく、町に残っているモノたちの1割ほどが行っていた。
そのメンバーは、ほとんどがエルフとの戦いの影響で売り上げが出なくなってしまった店のモノたち。
売り上げが出ないなら、盗んでしまおうという考えにたどり着いてしまったのだ。
ただ、勿論それには大きな弊害がある。
勿論盗まれた家のモノたちは怒りを覚えるわけだし、治安も悪化する。
そして、町のモノたちの結束も失われていくわけで、
「た、大変だぁぁぁぁ!!!!!エルフがこっちに攻めてきたぞ!!!!」
となったとしても、結束力が無ければまともに抵抗することなど出来ない。
その町は、一夜で飲み込まれて消えてしまう。
これが、目先の欲に溺れ、繋がりを立ってしまったモノたちへの罰なのだろうか。
それとも………。
そして、逆に変化に救われてるのが、エルフ。
彼らは、最初に争いが起こったとき、種族の絶滅を覚悟していた。
だが、なぜか簡易人側で反乱が起こったり、近くの町が弱くなったりして、よく分からないが生き残ることが出来ている。
「……長老!ただいま戻りました!!」
「おおっ!戻ってきたか!!」
そんな彼らの元に、さらなる幸運がやってきた。
魔王軍に向かって出した使者が、戻ってきたのだ。
長年魔王軍と争ってきた彼らは、受け入れて貰えるかどうか心配だったが、
「条件次第では、受け入れてくれるらしい。し、しかも、簡易人側からの脱出には、無条件で手を貸してくれるそうだ!」
「なっ!本当か!?それは、是非とも向こうの協力に合わせて脱出しなければ」




