8.ステータスのかわりに頭の方が
夜。
それは、電気のないこの世界において大半のものが寝静まる時間。
なのだが、
「ごはんっ!ごはんっ!!」
ノガワは寝ていない。
というより、元気だった。
部隊は変わったのに相も変わらず出てくる飯が不味かったので、ノガワはずっと夜に食事をとっているのだ。
「チュゥ」
ラウスがノガワの耳元でなく。
だが、ラウスが食べ物を食べることはない。
なぜなら、ノガワの捨てている不味い食事を全部食べているから。
「………ふぅ。食べた。食べた。お腹いっぱぁい」
ノガワは満腹になって、そのお腹を撫でた。
そして、気づかれないうちに自分の寝床に戻る、
ことはなかった。
「さてさて、今日はどんな話をしてくれるんだか」
ノガワは薄い笑みを浮かべながら、扉に近づく。
そこに耳を当てると、扉の向こうから声が聞こえてくる。
こんな時間に起きているのは、ノガワだけではなかったのだ。
「……本当にバカだよなぁ」
「だよなぁ。異世界の奴等は、ステータスが高いかわりに、頭の方が劣化したんだろうよ」
聞こえてくるのは、兵士たちの悪口。
ノガワはたちは、兵士たちに見下され、バカにされているのだ。
その理由はというと、
「なんで俺たちが疲れないのか、って、疑問に思うだろ。普通は」
「だよなぁ。体力増加のスキルがあるって、どうして気づかないんだろうなぁ」
「筋力強化もあるし、体力持続回復だってあるのに」
兵士たちのスキルに気付かないからだ。
気付ける場所はいくらでもある。
それなのに、一向に気付く様子はない。
これは流石に、バカと言われても仕方ないような気がしなくもない。
ーー確かにバカなことには同意するよ。ただ、その油断が僕に気付けなくさせていることを考えると、君たちもなかなかにバカだと思うよ。
決して口には出さないが、ノガワはノガワで兵士たちを馬鹿にしているところがあった。
だからといって、見下すこともなければ、油断することなどあり得ない。
「でも、バカだから俺たちに反抗することはないのは便利だよな」
「ああ。便利なのは便利だよな。このままストレスを与え続けて、全員前線送りにするんだっけか?」
「確かそうだったな。部隊変更を希望させて、前線へ送るんだろ?」
「もともとそのために召喚したわけだし、こんな所にいられても困るだけだよなぁ」
兵士たちが話すように、国はノガワたちを前線に送りたいと思っている。
そのために呼んだのだから、それ以外のことをされても困るのだ。
ーー前線は嫌だけど、この流れだと確実に行くことになるよねぇ。それなら、せめて準備だけでもしておくかぁ。
そう覚悟を決め、ノガワは足元へ視線を落とした。
……。
次の日。
起きると兵士たちが慌ただしく動いていた。
「どうしたの?」
ノガワは近くにいたクラスメイトに聞いてみる。
クラスメイトは、ノガワの顔を見て、
「ああ。ノガワ。実は、王宮から国宝が盗まれたらしいんだよぉ」
「へぇ。国宝って、どんなの?」
「さぁ?そこまでは聞いてない。ちょっと隊長に聞いてみるか」
ということで、ノガワたちは補給部隊の隊長に話を聞くことにした。
忙しいから話を聞けるかどうか不安だったが、補給部隊には待機命令が出ていて暇だったらしく、快く解説をしてくれることに。
ノガワたちは椅子に座り、隊長の話に耳を傾ける。
「盗まれたのは、覚悟の札という、長方形の紙だ。強い覚悟を持つと紙が光って、その覚悟を持ったことを達成すると強い力が得られるらしい。因みに、貰える力の強さは覚悟の強さと、そのことの困難さが関わってくるらしい。そして、強い覚悟ほど紙の光が強くなるんだとさ」
「へぇ。そんなのがあるのか」
「おもしろいねぇ」
隊長の話に、聞いていたノガワたちは盛り上がる。
それから、自分が持っていたらどんな覚悟を持つかとか、色々な話に発展した。
そのとき、ふと思い出したようにノガワが、
「それって、何回でも使えるの?」
と、尋ねた。
その質問に興味が湧いたのか、他の話していたメンバーが答えを知っているだろう隊長に視線を向ける。
隊長はそんなに食いつくモノかと苦笑を浮かべ、首を振った
「いや。1回使えばそれで終わりだ。だが、その代わりに覚悟の札は何枚かあるんだ。確か、今回の盗まれたのは………3枚、くらいだったか」
「え?そんなにあんの?」
「まあ、消耗品だと考えると、使いづらいよね」
そんな間にまた話は雑談へと戻っていった。
ただ1人だけ、その中で明るい顔をしているだけのモノがいたことに、兵士もクラスメイトも気付かない。
ーー覚悟の札、かぁ。
そんな会話をしている間も、白の人間らしきモノたちがあたふたと辺りを駆け回っている。
それを見ながらノガワは自分の服のポケトにある、数枚の紙に触れながら、
ーーこれで、僕は、