75.その気持ちを、炎と一緒に消し去って良いなら
「じゃあ、もういいね。告白しても」
「そうなんだよなぁ。告白したことがバレても、焼けてなくなったら何かされることはないだろうし」
そこまで言って、下を向いた。
それでも勇気が出ないようだ。
ーー何だろう。こっちまでドキドキしてきちゃうよ。初々しいねぇ。
「なるほどねぇ。勇気が出ないんだぁ」
「そ、そうなんだよな。お、俺も衛兵だし、こんな戦い勇気を出せるはずなのに」
そう上手くはいかないのが、恋愛というモノ。
例え戦場では勇ましく戦う亡者であっても、思い人を前にすると緊張して何も出来なくなってしまう。
ーーとは言うけど、この辺も慣れだよね。なれたら普通にアタックできるだろうし、振られても大して辛くは思わなくなるかもね。
「ん~。勇気が出ないのかぁ。それはなかなか難しいねぇ。その辺は、自分次第だからなぁ」
「そ、そうだよなぁ。……あぁ。どうしよぉ」
衛兵は頭を片手で押さえ、悩む素振りを見せる。
だが、その言葉は本心からのモノではないような気がした。
ーーうぅん。もうどうするかは、自分の中で決まってるよね。どっちかは分からないけど、今は僕に背中を押して貰うのを待ってるって状況かな。
「……まあ、時間はないよね。その気持ちを、炎と一緒に消し去って良いなら、何もしなくて良いと思うよ」
「あ、ああ。……お、俺は」
「俺は?」
衛兵は、自分の気持ちを確かめるように呟く。
ノガワはその続きを促すように言いつつ、その心の中では、
ーーなんか、炎と一緒に消し去るって、凄い上手いこと言った気がするね。また使う機会があったら使おぅ。
とか、しょうもないことを考えていたりとかいなかったりとか。
「……俺は、やるよ。死ぬ前に、告白して、まっさらな気持ちで死ぬんだ!」
「おぉ~。頑張れぇ~」
ノガワはあまり感情を込めずに応援する。
それから、少し衛兵と話を続け、教えて貰った宿に行った。
部屋を取ったノガワは、暇だったのでその告白の様子を見に行くことに。
「……だ」
「……の?」
森の浅い場所。
そこから、小さな声が聞こえた。
この場所で衛兵は告白すると言っていたのだ。
「こんな時に悪いな。忙しいだろうから、単刀直入に言う。……す、好きだ。俺と付き合ってくれ!」
「えっ!?」
ーーや、やったぁぁ!!!
木陰に隠れながら、ノガワは楽しんでいた。
こんな生の初々しい告白なんて、そうそう聞けるモノではない。
「……え、えぇと。その、は、はい」
「い、いいのか!?……よ、良かったぁ!!」
衛兵の告白した相手は、恥ずかしそうにしながらも頷いた。
衛兵の喜ぶような声が聞こえてくる。
ーーすんなりいったねぇ。ふふふっ。コレも全て、背中を押した僕のおかげだね。存分に感謝してよぉ。
「あっ」
ガサガサ。
ノガワが満足していると、森の奥から何かいけない音が聞こえた。
ーーや、ヤバい!これは未成年の僕には見せられませんなヤツが始まりそうな予感がする!ど、どどど、どうしよ!?
ノガワのいる場所は浅いといえど自然あふれる森の中。
下手に歩けば、草を踏んで音を立ててしまう可能性も高い。
バレるわけにはいかないので、かなり気持ちが焦ったところで、
スッ!
身体が宙に浮く感覚。
ーーおうぇ!?何!?こんな浅いところに魔物が出るの!?
魔物にでも捕まれたのかとノガワが振り向くと、
ーーあっ。ある意味魔物かも。
とても人間とは思えない形相でノガワを睨む男がいた。
男は無言でその場から立ち去る。
勿論、ノガワを掴み上げた状態で。
ーーく、首が!首が微妙に絞まってる!苦しい!!
男の足取りは非常に静かで、ほとんどと言って良いほど草を踏む音すらしない。
男は歩いて行き、しばらくしたところで、
スッ。
手を開いた。
ドサッ!
「いっっつぅぅ~」
上手く受け身を取れず、ノガワが腰に手を当てながら悶絶する。
ーーひどいよぉ~。暴力反対!
ノガワはそんな気持ちを込めて男を睨んだ。
「……てめぇ。あんなとこで何やってやがった?」
ノガワが睨んでいるのは気にもとめず、男が質問をしてきた。
質問と言うより、尋問に近いかも知れない。
ーーなんか見た目は強そうだし、下手なこと出来ないなぁ。くぅ。僕にこんな人を一瞬で倒せるくらいの筋力があれば!
そんなことを心の中では思いつつも、表面上では、
「ん~。衛兵のお兄さんに恋愛相談を受けたから背中を押したんだよ。だから、ちゃんと告白してるかどうか確認しに行っただけ」
「あぁ?あいつから恋愛相談?……ちっ!そういうことかよ」
男は舌打ちをして、視線をそらした。
かなり睨まれていたので、ちょっとノガワの心が安定する。
ーー僕の方は良いとして、問題はこの人だよ。この人は一体誰なのさ。
「ねぇ。逆に、お兄さんは何であそこにいたの?」
「あぁ?俺は、……俺は、一応あっちの告白された方の父親なんだよ。男に森に連れ込まれるなんて、何があるか分からないからな。もしかしたら殺されでもするんじゃないかと思って、ついて行ったんだよ」
「ほ、ほぉ~。」
怖いと噂の、農園の人のようだ。
ーー聞いたとおり、かなり親馬鹿だねぇ。




