74.炎が来たら全部消えちゃう
「あっ!君!買っていかないか!」
「お、おぅ?」
突然話しかけられる。
ノガワは、首をかしげ、その話しかけてきた男性を観察した。
ーー服装から考えて、どこかの店員さんだね。焦った様な表情と声、そして、僕みたいな子供に声をかけるのに迷いがないところ。そこまで考えると、
「ここの土産物店の店員なんだけど、よ、良かったら何か買っていかないか?」
「うぅん。まあ、良いけど」
ノガワはあえて気乗りしていなさそうに言う。
相手の焦りを更に引き立て、値下げさせようという考えだ。
ーー今回は攻めすぎないようにしないと。買えなかったら損だからね。
「ぜ、全部1割の値段で良いから。好きなだけ買ってってくれ」
「1割!?な、何?そんなに値下げして大丈夫なの?」
ノガワはちょっと心配そうにしながら、商品を見る。
こういう仕草をすることで、
ーーこの心配が、何処への心配なのか考えるよね。もし、逆に商品が安すぎて品質を心配してると思われたら嫌だろうし。
「こ、ここのは普段、人気でよく売りきれるんだ。……た、ただ、今回の火事でもしかしたら全部焼けちまうかも知れないからな。早めに売っておきたいんだ」
「へぇ~。そうなんだ。確かに、焼けちゃったらもったいないよね」
ノガワは納得したように頷く。
それから、幾つか大きくて比較的安い物を選んでとっていく。
8個ほどとったところで、
「じゃあ、コレを買わせて貰おうかなぁ」
「ま、毎度ありぃ」
店員は少し難しい顔をしている。
とても少ないわけではないが、決して多いわけでもない。
微妙すぎる売り上げで、どう対応すれば良いか困っているのだろう。
ーー多めに買うんだったら、特に何も思わない。そして少なかったら、更に値下げするとか言えば良い。でも、この微妙な数は、僕が更に飽きたいと思わないだろう一定裏印なんだよね。
ここの土産物が本当に人気があるなら、客の気持ちを読み解くことは得意だろう。
そして、客のそんな心理をくみ取ったらどうなるか。
「お、おまけにコレも付けておくよ。だ、だから、知り合いとかがいたら声をかけてくれないか?安売りしてるって」
できるだけ商品をなくしたい店側として、少しサービスをしてくれるのだ。
ーー予想通り!無料で貰えたのもそこそこ数があるし、今回のお土産はこれくらいで良いかな?
ノガワは手に感じる思いを確かめながらそう思う。
「うん。じゃあ、何人かに声をかけておくよぉ」
「た、頼んだよ!」
ノガワはお土産を持って、土産物屋を離れる。
ーー安売りのことは商人の人たちに言っておけば良いとして。………後は宿かな?
宿は取っておかないと、今日泊まることが出来ない。
ーーま、泊まれずに死ぬ可能性もあるけどねぇ。
その場合は仕方ない。
が、もし死ななかった場合に宿が取れていなかったら問題だ。
ーー死んだらそれで終わりだし、とったか取らなかったなんてどっちでもいいし。
「あっ。衛兵さぁん」
「な、何だ!?」
ノガワは宿の場所を訪ねるため、衛兵へと話しかけた。
すると、なぜだが分からないが、驚かれてしまう。
ーーど、どうしたんだろ?話しかけない方が良かったかな?
「だ、大丈夫?ただ、宿の場所を訊きたかっただけなんだけど」
「お、おお。そうか。すまんな驚かせて。……えぇっと、宿はあそこだな」
衛兵は1軒の建物を指さす。
豪華すぎず質素すぎず、良い感じの宿だ。
ーーふぅん。オシャレじゃん。いいね。
「ありがとう。……それで、本当に大丈夫?何かあるんだったら、話聞こうか?」
「い、いや。流石にあったばかりの子供に話すようなことは、………ん~。いや。どうせ焼け死んだら終わりな訳だし、ちょっと話をしていいか?」
どうやら話してくれる気になったらしい。
ーーふふっ。衛兵と仲良くなっておいて損はないだろうからね。
ノガワは心の中でいやらしい笑みを浮かべた。
「何々?恋バナ?」
ーー実際は何だろうなぁ?ありそうなのは、各地で衛兵が反乱に加担してるから、村の人にはぶられてるとかかなぁ?
そんなことは無いだろうと思っていたが、ノガワは茶化すように言った。
だが、予想以上に衛兵の表情は変化して、
「な、何で分かったんだ!?……じ、実はそうなんだよ。ちょっと俺、片思いしてる相手がいるんだけど」
「う、うん。そうなんだ。ど、どんな人なのかな?」
恋愛の話だった。
ノガワは少し驚きが口の方には出てしまったが、表情の方は取り繕い、最初から分かっていましたと言わんばかりの表情をしている。
ーー絶対生き残って、幸せになるんだ!みたいな感じかな?……凄いフラグっぽい。すぐ死んじゃいそう。
「えぇっと。そこの農家の子なんだけど」
衛兵は近くの果樹園を指さした。
頻繁に人が出入りして、慌ただしそうだ。
ーー炎が来たら全部消えちゃうって言うのに。それでも仕事はするのかぁ。こっちの人たちも商売魂がたくましいのかも。
「で?告白はしたの?」
「い、いやいや。出来ねぇよ。あそこの農園の人、つまり、俺の好きなこのお父さんは、凄い怖い人なんだよ。しかも、重度の親馬鹿。告白したなんて知られたら、どんなことをされることか」




