7.人に気づいてもらおうなんて
面談が行われてから数日後。
ノガワは重い荷物を背負って歩いていた。
その周りには、同じように大きなバックパックを背負ったものたちが大勢。
「お、重い」
「補給部隊は、戦わないから楽だって言われたのにぃ」
ノガワのクラスメイトたちが、口々に辛そうな声をあげる。
ノガワはそんななか、黙って運搬を行っていた。
ーーあんまり騒いでいると誰かしらに目をつけられかねない。できるだけ静かに!目立たない行動を。
「あっ!?」
誰かが声をあげる。
ノガワは首をかしげ、
「あ?」
なんだろうと振り向いた。
そうしたときにはもう遅く、ノガワはの目には倒れこんでくる人が、
「「うわあぁぁ!!????」」
ドタバタドッタ~ン!
ノガワも倒れてくるものに巻き込まれ、2人は揃って地面へ寝そべることになった。
ノガワは横に倒れたため、下敷きになった左腕が痛んだ。
「いっつぅぅ!」
ノガワは顔を歪めながらも、片腕で地面を押して、ふらふらと立ち上がる。
そうして気づいてしまった。
ーーうわぁ。これ、絶対目立ってるよねぇ。
「………お前たち、落ち着いて行動しろ。物資を失えば、戦線は維持できないんだぞ」
「「……すみません」」
ノガワたちは素直に謝った。
ノガワは被害者であり、謝る必要などないのだが、
ーーここで下手にごねると、更に目ををつけられちゃう。このくらいだったら挽回のしようはいくらでもあるし、今はおとなしくしておこう。
「ノガワ君。ごめんねぇ!ごめんねぇぇぇぇ!!!!!!」
「いやぁ~。気にしないでぇ」
ノガワを巻き込んで転んだ女子生徒が、ペコペコと頭を何度も下げる。
ノガワはそれを苦笑しながらなだめた。
が、心の中では、
ーーやめてぇぇ!余計に目立ってるからぁぁぁぁ!!!
と、絶叫していた。
周囲の兵士たちの視線が鋭い。
「…………はぁ」
先が思いやられ、ノガワはため息をつくのだった。
ーーこれからは大丈夫とか、楽観的すぎるよねぇ。
………………。
それから、数回転ぶのに巻き込まれたりして、どうにか目的地にたどり着いた。
ーーつ、疲れたぁぁ。しばらく休もぉぉ!!!
ノガワはそう思いながら、ふらふらと歩く。
が、
「休んでいる暇なんてないぞ!また物資を回収するため、王都へ戻るんだ!!!」
「え!?」
「「「ええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!????????」」」
ノガワは絶叫したかったが、少し驚きの声をあげる程度にとどめた。
ただ、他のクラスメイトは我慢せずに叫んだ。
そして、
「うるせぇ!もっと落ち着け!!!」
兵士に怒られた。
なぜかノガワも一緒に。
ーーどうしてぇぇぇ!!!!??????僕、ちょっと驚いただけだよぉ!うるさくしてないよぉぉ!!!
そんなノガワの心の叫びは届かない。
世の中はわりと理不尽なことをノガワは再認識するのであった。
ーー人に気づいてもらおうなんて、考えが甘いよね。僕たちが思ってるほど、先生たちや上司たちは、僕たちのことを見てくれてないんだから。
「さっさと帰って、新しい物資を運ぶぞ!!」
「「「は、はい!!!」」」
クラスメイトたちは返事をして、真剣な表情になる。
ノガワも表情だけは整えた。
彼らの後ろで薄い笑みを浮かべている兵士たちに意識を向けながら。
ーー嫌な雰囲気だね。バカにされている気分。
ノガワは眉を潜めるが、それを隠すように手で顔を覆った。
ここで悟られるわけにはいかなかったから。
「ほら!速く歩け!!」
「「「はい!!!」」」
…………それから更に数日後。
ノガワたちは、王都に到着。
そして、新しい物資を揃えていた。
「……思ったんだけど。戦争って、こんなに消費が激しいものだったんだな」
「そうだね。食糧も武器も、それから人も。湯水のように使われていく。ここまで使っちゃったら、引くに引けないよ」
お互いが激しく消耗する。
だからこそ、1度争いが起きてしまえば、どちらかが負けるか、お互いが争えなくなるほど疲弊するまで争いが終わることはないのだ。
その事を、異世界に召喚されてクラスメイトたちは気づいた。
そんな会話を聞きながら、ノガワは表情を変えずに作業する。
ーーそれに気づいたのはいいけど、だからといって変なことはしないでほしいなぁ。上司に戦いをやめるように言うとか、たぶん僕も巻き添えを食らうくらいの面倒なことになるだろうし。
表情は変わらないが、頭のなかではきちんと考えているノガワ。
「さて、今日は作業終了だ!荷物を積み終わったやつから休め」
「「「はい!!」」」
クラスメイトたちは返事をする。
やっと休憩。
ノガワは、安堵の意味も込めて笑みを浮かべた。