69.そちらに見えるのは、何の変哲もない火柱
「それじゃあ、何かあったら呼べよ」
そう言って店長は去って行った。
ノガワは朝食を食べつつ、昨日よく話の出来なかった人と話をしていく。
色々と情報が集められて楽しめた。
朝食を食べたら部屋へ戻り、すぐに宿を出る。
出るときに例の店長の奥さんが出てきたりしたが、そこは割愛。
ーーいやぁ~。楽しい宿だったねぇ。次の町でもこんな感じで楽しく過ごせたら良いんだけど。
ノガワは次の町への期待を高めながら道を歩く。
そうしてしばらく歩いていると、
ゴトゴトゴトッ!
後ろから何やら思い音が近づいてくる。
ーーそんなに速度があるわけじゃないね。僕が前の世界で出せた全力と同じくらいのスピードかも。
今なら、走ったら距離を開けることが出来そうだ。
ただ、後ろから来るモノに興味があるので走るのはやめておく。
しばらくゆっくり歩いていると、後ろから見える影は大きくなってきて、
「……あっ。坊主。こんな道を1人で歩いてたら疲れるぞ」
「うん?そうかな?」
やってきたモノに乗っていた人から声をかけられ、ノガワは受け答えをする。
だが、その心の中では、
ーーおおぉ。本物の馬車だぁ!馬もあんまり見たことはなかったけど、馬車なんて初めて見たよぉ!!
テンションが少し上がっていた。
「どうだ?乗ってくか?道の途中からだし、少し割引するぞ」
「ん?本当?いくら?」
ノガワは金額を尋ねる。
そこまで高くない金額だったので、お金を払い、馬車へと乗り込んだ。
馬車の中には、2人の人が乗っていた。
「こんにちはぁ」
「ああ。こんにちは」
「こんにちは。君は一人旅かな?」
「そうだよぉ~」
ゴトゴトと揺れる車内で、2人と会話を楽しむ。
2人は夫婦で、商人をしているらしい。
現在は、新しく店を作る予定の土地を見に行く途中なのだという。
「ふぇ~。お金持ちじゃん。うらやましいねぇ」
「はははっ。そんなこと無いよ。ただ、ちょっと挑戦しようって言うだけさ」
「そうそう。そんな大商会ほど儲かってるわけではないよ」
大商会ほどではない、ということは、普通の商会くらいには儲かっているということ。
ーーそこそこのお金持ちっていうことは、ちょっと力もあるのかな?重要なことを知ってるかも知れないし、もうちょっと深く話を聞いてみよう。
ノガワはそう考えて、慎重に探りを入れていく。
色々聞いていくと、奥さんの方の口は軽いようで、そちらからポンポン重要な情報が飛び出してきた。
ーーうわぁ、激しい情報漏洩だね。ま、まあ、もしかしたら嘘をついているかも知れないし、ちょっとした噂話程度だと思っておこう。
ノガワは少しあきれつつも、油断はせずにそう思った。
「おぉい。着いたぞ!!」
1時間ほど経っただろうか、御者から声がかけられた。
どうやら、目的の町に到着したようだ。
ノガワたちは馬車から降りる。
「ありがとぉ。おかげで楽が出来たよぉ」
「おぅ!また空きがあったらのってくれよ!」
「うん。またそっちに行くときには使わせて貰うよぉ」
そんな日が来るかどうかは別の話だ。
魔王軍へ帰るときの待ち合わせ場所はまた方角がかなり違うし、この馬車を使うことはないだろう。
ーー乗り心地もそこまで良いわけではなかったからね。普通に走った方がよさそう。
ノガワはそう思ったが、それはバフのおかげと言うことを忘れてはならない。
このバフをかけてくれたルティアーヤに感謝である。
ーーそういえば、ルティアーヤたち何してるかな?……あっ。きっと、エルフとの交渉とかしてるんじゃないかな?エルフも簡易人側と争ってるから、魔王軍と手を取りたいだろうし。
ノガワはそう思いながら、魔王城があるだろう方角へ目線を向けた。
そちらに見えるのは、何の変哲もない火柱。
ーー魔王城は全然見えないねぇ。………って!?
「火柱!?」
「お、おい!火事じゃねぇか!?」
「い、急いで見に行くぞ!足に自信のあるヤツは来てくれ!!」
ノガワが驚いている間に、町のモノたちが次々と走って行く。
状況の確認をするつもりのようだ。
ーーあ、あれぇ?おかしいなぁ。火を付けるのは後数日後のはずだったのに。
ノガワが驚いた理由。
それは、火事が起きたからと言うわけではなく、その火事が予定とは違う日に起こったからであった。
元々火事を起こす予定ではあったのだ。
ーーまあ、いいや。この火事で作戦が大きく変更させられるわけでもないしね。
そう思いつつ、ノガワは辺りを見回す。
そして、火事を見てまだ呆けているモノに近づき、
「大変なことになってるねぇ」
「おぇっ!?……あ、ああ。びっくりした。急に話しかけないでくれよ。で、でも、そうだよね。あんなに大規模な火事、普通は考えられないよな」
そんなことを話して、何があったのかなど勝手に推測していく。
何の根拠もない推測であるが、こういうことを考えるのが好きなモノは多い。
この話し相手のモノもそうだったようで、どんどん話はヒートアップしていき、さらにその様子を見た野次馬が集まってくる。
「絶対人為的なモノだろ!」
「いや、神の怒りに触れたんじゃねぇか!?」
「いやいや。魔王軍の仕業だろ!」
「も、もしかして、新しい種族が反乱を起こしたんじゃないか!?」




