66.1名様宿泊でぇす!!
「お兄ちゃん?」
「あ、ああ。1泊出来るかな?」
しばらくノガワが固まっていると、少女が話しかけてきた。
ノガワは慌てて宿泊できるか問う。
すると、少女はぱっと表情を輝かせて、
「1名様宿泊でぇす!!」
そう言いながら、宿の奥へと消えていった。
ーーあぁ。完全に置いてかれちゃった。どうしよ。
ノガワは少女の消えた先を見つつ、苦笑を浮かべた。
「……あぁ。いらっしゃい。そんなところにいないで入ってきな」
「あっ。うん。そうするよぉ」
しばらく待っていると、奥からがっしりとした体格の男性が出てきた。
体格は凄いが、そこまで怖い雰囲気なわけでもない。
ーーこの人も店員なのかな?というより、あの子はこの人の娘さんなのかな?と考えると、この宿は家族経営?
「悪いけど、うちはそんなに高い宿じゃないぞ」
「え?あ、うん。大丈夫だよ。衛兵さんにお勧めされてきてるから、ある程度聞いてるし」
男性の言葉に、ノガワは頷いた。
ノガワは、値段はあまり高くなくてサービスの良い宿を希望したのだ。
ーーまさか、こんなに大きいところだとは思わなかったけど、宿内を見る限りは綺麗だし、当たりだったかも。
どこかの宿みたいに、壁に下半身だけのオブジェがあったりはしない。
「なるほど。傭兵がお勧めか。それは、あいつらの面子を守るためにも頑張らないとな」
「おお。期待してるよぉ~」
ノガワはそう言いながら代金を払っておく。
そして、差し出される鍵をとり、自分の部屋へと向かった。
因みに、この宿の特徴なのだが、
ガチャッ!
ノガワは部屋の扉を開けた。
すると、
「あっ。こんにちはぁ~」
「おっ。新しいのが来たか!」
ノガワに掛かる声。
一人部屋で頼んだのに、相部屋と間違えられた。
と、言うわけでは勿論なく、コレがこの宿の特徴である、隣部屋の人と話せるというものだ。
「こんにちはぁ~。よろしくねぇ」
ノガワは、部屋に空いている穴に声をかけた。
その穴の先には、若い女性の姿かが。
穴は1つだけでなく、部屋の四方に着いており、いくつかの先に客らしき人がいる。
「おう。黒髪たぁ珍しいね」
「ん?あ、そう?でも、こないだ勇者嫌いの人から、僕も同類だとか言って怒鳴られたんよ。やめてほしいよねぇ~」
ノガワはそう言って、あきれたように笑った。
普通なら、そんな最初から重い話をしない方が良いかも知れない。
が、ここは異世界なので、少し文化も違う。
「はははっ!なんだそれ!まあ、確かにそう言うヤツはいそうだけど、頭おかしすぎるだろ」
「てか、勇者嫌いって言う時点でかなり頭おかしいよな」
ガハハッ!余笑う宿泊客たち。
因みに、穴が空いて他の部屋とつながってはいるが、全ての部屋が丸見えなわけではない。端の方に寝室があったりする。
それに、穴もそこまで大きくはなく、人の顔の大きさくらいしかない。
ーー流石に大きい穴を開けちゃうと他の人の物を盗んじゃうかも知れないからね。防犯上コレが最適なのかも。
「今日初めてこの町来たんだけど、皆は何かこの町のお勧めとかある?」
「あぁ。俺あるぞ」
「ああ。俺もだ」
「私もあるよ」
ノガワが呼びかけると、ほとんどのモノが声を上げた。
ノガワはそのものたちに1人1人目を合わせ、話を聞いていく。
話によると。全員旅人や商人らしい。
ーーいやぁ。色々経験してるから、話が面白いねぇ。失うのはもったいない人材かな。
「……ありがとぉ。じゃあ、僕は1回おすすめの場所に行ってこようかな。お礼に、お土産もちょっと買ってくる」
「おっ!それは期待だな!」
「間違ってもまずいヤツを買ってくるなよ」
「ははっ。何を買ってくるかは僕の気分次第かなぁ」
ノガワは笑った。
補記あの者たちも口では文句は言うが、その顔には笑みが浮かんでいる。
ーーこんな普通に楽しい人たちだけど、経験は凄いんだよねぇ。
それからノガワは宣言通り宿から出て、買い物に向かった。
店員とも話をして、買い物を楽しむ。
ーーお土産は、これでいいかなぁ。
ノガワは宿のモノたちのために安くてたくさん入っている物を買う。
それを買ったところで、かなりソラがオレンジ色になってきた。
ーーそろそろ戻ろうかなぁ。
そう思ったのだが、
「あっ。君、ちょっといいかな?」
突然呼び止められた。
ノガワは立ち止まり、振り返る。
振り返った先には、不気味な笑みを浮かべた男性が立っていた。
「ん?どうしたの?」
「いや。少し話を聞きたいんだけど」
そう言いながら、男性は不自然に指を立てた。
ーーあっ。これはあれだね。
ノガワはその不自然な指の立て方に思い当たるミオンがあったが、あえて無視しておく。
「何?僕もこの町には来たばかりだから、あんまり分からないよ」
「………そうですか。では、他の方に聞いた方が良いですね。すみません。ご迷惑をおかけしました」
男性は頭を下げ、去って行く。
最後まで、不気味な笑みは消えなかった。
ーー思っていたよりすぐに広がったねぇ。まさか、こんな所で見ることになるなんて。
ノガワは笑みを浮かべながら歩く。
そおして、平和に宿へと帰った。
ーー平和は、長くは続かないみたいだけどね。まあ、今はこの平和を楽しんでおこうか。




