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6.俺の彼女の名前は

「諸君おはよう」


朝、ノガワのテンションを数段階下げる声が聞こえた。

声の主は、当然ファターヤである。

 ーー朝起きても変化はなし。夢だったらどれだけ良かったか。


「今日は面談を行う。勿論、優秀なモノたちだけ、な」


優秀なモノたち。

これにはノガワも含まれている。

というか、男子のほとんどは含まれているのだった。


この優秀かどうかの基準は、昨日のランニングで最後まで脱落しなかったかどうかだ。

ノガワは色々頑張ってどうにか走り終えたので、優秀ということになっている。

ということで、ノガワはあまり慌てていなかったのだが、


「まずは、朝食を食べてからだな。食堂へ移動しろ!」


「はい!!」


生徒たちが返事をして歩き出す。

ノガワは慌ててそのあとについていった。

 ーーうげぇ。食堂のご飯かぁ。


ノガワは肩を落としながら席につく。

そのとき、


トントン。

と、足に軽い衝撃が。

ノガワは足下に視線を落として、ほほを緩ませる。


「チュ」


小声で足下にいたネズミのラウスが鳴いた。

ノガワはそれを気づかれないよう、視線を落とさないようにしながらも、自分の前にある食事を地面に落としていく。

すると、それにラウスが食いついていき、ノガワの落とした食事はきれいさっぱり消えてなくなった。


「おお。ノガワ。もう食べ終わったのか?」


「あ、ああ。タケダ。そうなんだよぉ。お腹すいちゃってて」


ノガワはそう言って苦笑する。

勿論嘘だ。

食べ終わったということも嘘であるし、お腹が減っていたというのも嘘である。


 ーー昨日調達しておいた食料を寝起きに食べたから、全然お腹すいてないなぁ。

ノガワはそう思いながら、膨れたお腹を擦る。

足元では同じように満腹になったラウスが仰向けになっていた。


「よし!それじゃあ、面談を行う!ついてこい!!」


「「「はい!!」」」


生徒たちが返事をする。

全員が立ち上がって、その後についていく。

………まあ、勿論数名の生徒は兵士に首根っこを捕まれて強制的に訓練へ連れていかれたので、全員がついていったわけではないが。


「名前は?」


2人だけの個室。

そこで、ノガワは面談を受けていた。

ノガワに面接を行うのは、まだ年若い兵士。


「僕はノガワ・ダイナだよ」


「ダイナか。よろしく。早速だが、君の配属先を決めたいと思う」


「僕の、配属先を?」


ノガワは首をかしげ、

 ーーって、もう配属されんのぉぉ!!!!??????

心のなかで絶叫した。


「さて、希望はあるか?」


「え!?え、え~と」


ノガワは急いで考える。

 ーーどうすればいいかな?できるだけ前線からは離れたいし。

そして、そう考えてすぐに、


「ぼ、僕はあんまり戦闘向きのスキルじゃないから、補給部隊とかの戦わないところがいいかなぁ、と」


「ああ。そうなのか?スキルが戦闘系じゃないなら仕方ないよなぁ」


兵士は納得したように頷く。

その様子を見て、ノガワは

 ーー昨日の講習を聞いてても思ったけど、本当にスキル至上主義の考え方なんだねぇ。

と、考察をした。


「それで、………えぇっと。聞いてなかったね。お兄さんの名前は?」


「俺?俺はルイだ。なにか質問でも?」


ルイは促すようにして言う。

ノガワは少し考えるそぶりを見せたあと、


「ルイは、どこの部隊に所属してるの?」


「俺は、近衛部隊だな。王城とかの警備が基本だ。ある意味ここも争いは少ないが」


そう言ってから、じっとノガワの目を見る。

それから数秒見つめたあと、ゆっくりと首を振った。


「近衛部隊は王の警護とかも仕事のうちだから、身分のはっきりした者じゃないと入れないんだ」


「ん?その言い方だと、まるで僕の身分がはっきりしてないみたいに聞こえるんだけど」


ノガワは眉間にシワを寄せた。

召喚されたノガワたちは、国に身分を保証されているはずなのだ。

その筈なのに、身分がはっきりしないと言うことは、


「い、いや。国はちゃんと身分の保証をしているぞ!ただ、こちらは異世界人のことを生まれから知っているわけではないからな」


「だから、完全に信用することはできない、と。…………まあ、いいか。ルイは彼女とかいるの?」


「へ?彼女?」


ルイは呆ける。

急に身分とは関係のない話をされたのだから、呆けるのも仕方がないのだが。

だが、ノガワの顔が真剣なものだったので、


「お、俺には、レレナっていう彼女がいるぞ」


「へぇ。ってことは、近衛部隊は彼女が持てるくらいには平和なんだね」


ノガワは薄い笑みを作って言う。

その言葉で、ルイは片目を見開いた。

以外とノガワが鋭い考察をして来て、驚いたのがわかる。


「……」

「…………」


お互い、黙って見つめあった。

それから先に目をそらしたのはルイの方だった。

苦笑いを浮かべながら、


「わ、分かったよ。なにか功績をあげたら、近衛部隊に入れるように進言しておくから。とりあえず、補給部隊で我慢してくれ。これで面談は終わりだ」


「そう?…………ならいいかなぁ。あっ!それと」


面談が打ち切られる。

そこでノガワは最後の質問を行った。


「ねぇ。ルイの彼女の名前なんだっけ?忘れちゃったよ」


「あぁ?どうでもいい質問をして来たな。俺の彼女の名前は、」

「ティアラだよ」


「……ふぅん。次は忘れないようにしとくよ」

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