57.ひぃ~。悪魔ぁ。鬼ぃ~。魔王ぅ~
「では、1番聞いておきたいところだけ聞いておきましょう。ノガワさん。あなたに、魔王軍への敵意はありますか?」
「今のところないよ」
ノガワは断言した。
だが、魔王は少し困った顔をする。
ーーこの回答じゃ不満かぁ。絶対的な安心を求めるタイプじゃないと思ってたんだけどなぁ。
「えぇっと。今のところというのは、どういう事か聞いても良いですかぁ?」
「簡単だよ。僕の復讐を邪魔するなら敵対する。それだけ」
ノガワはニコリと笑って言った。
魔王はそれを聞き、ゼラナの方へ視線を向ける。
ゼラナは、今の言葉に嘘はなかったという言葉を示すため頷いた。
「………そうですか。わ、私たちが、復讐を邪魔する可能性もあると思っているんですか?」
「可能性はあると思ってるよ。だって、簡易人を全滅させるのは大変じゃん。だから、主導者を支配下に置いて、管理するのも可能性としてはあるかなぁと思って。それで、支配下に置く簡易人をまとめる主導者的存在として、王家の人間とか必要になるだろうし」
「な、なるほど。確かに、そう言われてしまうと、ないとは言い切れませんね」
言い切れないらしい。
ーーまあ、そうだよね。どんな状況になるかは分からないし、絶対殺すとかは言い切れないよね。
ノガワはそう納得した。
自分の願いが叶わないからと言って怒ったりはしない。
「でも、さっきも言ったとおり、今のところ敵意はないよ。できれば、仲良く出来たら嬉しいかな」
「………そうですね。では、改めてよろしくお願いします」
そう言って、魔王は右手を差しだしてくる。
ーーうぅん?これは、本当に信用して良いのかな?
ノガワは少しだけ警戒したが、握り返さないわけにも行かないので、覚悟を決めて、
「うん。よろしくね」
シッカリとその手を握った。
ーーふ~。押しピンが仕込んであるとか言うことはなかったね。良かったぁ~。
しばらくにぎると、2人は何も言わずに手を離す。
シュォ。
ノガワは、胸の辺りで少し暖かさを感じた。
ーーん?何だろう?
気になったノガワは、自分の胸の辺りを確かめて、
ーーあぁ。そういうことか。やっと1つ目だね。
ラウスが簡易人の王城から盗んできた、覚悟の札が1枚消えていた。
つまり、覚悟していたことを乗り越えたわけである。
ノガワが今回覚悟を決めたことは、クラスメイトたちを裏切って、魔王軍に入ること。
おそらく、今回魔王に認められたことで、本当の意味で仲間になれたのだろう。
そして、その認められたのに合わせて、
《固有スキル『偽りの記憶』が固有スキル『改変の魔眼』へと進化しました》
《スキル『テイム』がスキル『一心同体』へと進化しました》
スキルの進化を告げる声。
これが覚悟の札の効果のようだ。
ーーあぁ。僕の固有スキルも進化したのかぁ。これでもっと仕事をしやすくなったかな?
「ノガワさん。そういえば、異世界人には家名と名前があるんですよね。ノガワさんの家名は何なんですか?」
どうやら、名字と名前を聞くつもりのようだ。
それを感じて、ノガワは表情が引きつりそうになる。
ーーえぇ~。名前を聞くのはやめて欲しいな。……いや。聞かれるのは別に良いか。ただ、
「僕の名字はノガワだよ」
「……ん?ノガワが名字。名字というのは家名のことですよね。では、名前は何なのですか」
「………ダイナ。だけど」
ノガワはそういいつつ目をそらす。
本当は嘘をつくなりして、名前は教えたくなかった。
が、クラスメイトも沢山この世界に来ているので、嘘を教えていると分かるとマズい。
ーーそれ以前に、ゼラスが嘘を分かるって言ってたし、そこでバレちゃうかな。
「ダイナ、ですね。分かりました。では、ダイナさん」
「あっ。あんまり下の名前で呼んで欲しくないかなぁ。上の方で呼ばれるのになれてるし」
ノガワはそう言う。
決してそれは嘘ではない。
嘘ではないが、全てを話したわけでもない。
「そうですか?では、向こう側でノガワという名前をよく使われるということすよね?そうなると、こちらで使うなら下の名前の方が良いかも知れませんよ」
「………そ、そうかなぁ?」
「そうですよ。名前が漏れてしまっても、知ってる人が少ない名前の方が、ダイナさんが裏切っているとバレないですよね?」
「……うぅ。そ、そうだね」
ノガワは渋々納得することにした。
ーーやめてほしいなぁ。下の名前かぁ。なじんでも困るし、逃げようかな。
ノガワはそう考え、
「あ、あぁ。そういえば提案なんだけどさぁ!!」
「っ!?………お、おお。ビックリしました。どうしましたかあ?」
話題を強引に変えるため、少し大きな声を出したノガワ。
魔王はそれに驚きつつも、内容を尋ねてくる。
ーーよし。話を聞いて貰えるなら、逃げれる確率は大きい!!
「僕、また簡易人の方に行ってお仕事してこようと思うんだけど。手頃なのないかな?例えば、今回のハーピーの移動で、簡易人側への緊張感が増してて、寝返りそうな種族とか、さ」
「………ほぅ。仕事熱心なのは素晴らしいですね。なら、そんなあなたに良いお仕事がありますよ」
魔王は笑みを浮かべた。
表面上は弱々しい笑みだが、きっと心の中では、悪魔のような笑みを浮かべていることだろう。
ーーひぃ~。悪魔ぁ。鬼ぃ~。魔王ぅ~。……って、そういえば魔王だったね




