53.魔王様だけで考えたモノではないな
「ただし、勿論条件付きだ。生活する地域については、先ほどハーピー側から提案があったとおり、簡易人側だった町の跡地とする。そして、前線への参加だが、これはある条件に適さない限り、3ヶ月間は参加しなくて良い」
「「「ええ!?」」」
驚愕の声が響く。
ハーピーたちの提案では、1ヶ月となっていたのに、わざわざこちらから3ヶ月にするのだ。
幹部たちは魔王が不利なことをしようとする理由がよく分からなかった。
「そ、その条件というのは?」
ハーピーはそう尋ねる。
すると、少し幹部たちの表情が落ち着いた。
そう。幾ら3ヶ月の猶予があるといえど、そこには条件があるのだ。
「条件は簡単だ。前線に勇者が出てくるか否か。それだけだ」
「っ!………私たちに、復讐の機会を頂けると?」
「それも理由の1つではあるな」
ハーピーの発言に、ルティアーヤは少し笑みを浮かべながら答えた。
ただ、その笑みの中にはあきれも混じっている。
それに気付いたのは、四天王やその副官たちだけ。
「魔王様のお話では、ハーピーには勇者へ恨みの言葉を叫びながら攻撃して欲しいとのことだった。もし殺すなどして勇者がしばらく前線から出てこなくなったら、貴様らの前線から離れる期間は半年まで延長される」
「「なっ!?」」
また驚愕の声が上がった。
だが、今度はすぐに落ち着く。
現在勇者の力はかなり魔王軍にとっては厄介であり、それが出てこなくなるなら、ハーピーが半月出てこないことくらい安い代償だと思えるのだ。
そして魔王がハーピーにそんなことをいうのは、ハーピーなら勇者を動けなくさせることが出来る能力があると考えたから。
その根拠もまた単純。
彼らは今、手違いで大勢のハーピーを殺したことを後悔していると考えられ、そこに戦場で、お前のせいで娘が死んだんだ、などと言いながら敵が突撃してきたら、それはもう耐えられないだろう。
「勇者はまだ幼いと聞く。まさか、その心を狙うとはな。よく考えられた作戦だ。……ただ、この作戦、魔王様だけで考えたモノではないな」
「っ!」
ルティアーヤは変わりそうになる表情を全力で押さえる。
この作戦、声を上げたモノが言うとおり、魔王だけで考えたモノではない。
というより、ほとんどとある1人の少年が考えたモノだった。
「………よく分かったな。その通りだ。この作戦は、魔王様だけで考えられた作戦ではなく、こちらで雇った協力者にも協力して貰って発案したモノだ」
「ほぅ!誰かを雇ったのか?それは、幹部入りする可能性もあるって事か?」
議題は、その発案の協力者へ移りそうになる。
ルティアーヤは慌てた。
簡易人の少年をスパイとして雇ったなど、簡易人のことが嫌いな物堅い幹部連中に言えない。
「幹部入りはないと思って貰って良い。そして、一応機密に近い情報なので、質問はここまでだ」
ルティアーヤがそう言うと、不満そうな顔をしながらも幹部たちは黙った。
幹部たちの顔を見回し、ルティアーヤは満足そうな顔を浮かべる。
安心した顔を見せると、そこを聞かれるとまずいことだと分かってしまうので、そう言う表情をするしかなかったのだ。
「さて、それではまたハーピー族の話に戻ろう」
ルティアーヤは、紙を見ながら言う。
その言葉に、幹部たちは首をかしげた。
まだ話し合うことがあるのかという顔だ。
「魔王様は、ハーピー族にどの物資を運搬させるかは会議である程度決めて良いという考えだ。なにか、意見はあるか?」
ルティアーヤはまた質問をした。
突然の質問だったが、幾つか手が上がる。
こういうときに指名すべきなのは、1番最初にも指名した、
「では、サキュバス族」
「はぁい。質問なんだけど、魔王様のお話では、ある程度は決めても良いって事だったのよね?とういうことは、逆に1部の運搬を決められているモノがあるって事かしら?」
サキュバス族の代表は、こういう大半のモノがいわれてみるときになるような質問をすることが多い。
そのため、最初に指名するには最適な人材だ。
ルティアーヤにも、彼女にはかなり信頼を置いている。
「そうだな。いうとおり、1部は決まっている。その内容は、医療物資の運搬だな。薬草やポーションなどはそこまで重くないので、ハーピーが運ぶのに適しているだろうとの判断だ」
「なるほどぉ。ということは、今回の決定では医療物資以外の運搬を決めるということなのねぇ」
「いや。そういうわけではない」
ルティアーヤは否定する。
それを聞いて、幹部たちは不思議そうな表情をした。
ルティアーヤはその表情になるのも良くわかると、少年から話を初めて聞いたときのことを思い出しつつ、
「医療物資は幾らあっても足りないということはほとんどないだろう。必要だと思えば医療物資の方面に回しても構わない」
「ふぅん」
ルティアーヤは少年に教えられた回答をその通りにいう。
そして、心の中で、少年が語っていた本音の作戦の部分を思い出し、思わず苦笑いを浮かべそうになる。
それを考えているフリをして口元を隠しつつ、すでに簡易人側の領土に行った例の少年へ思いをはせた。




