5.まあ、そんなモノ
「チュゥ」
「ん?ネズミ?」
小さなネズミが、ノガワのことを見上げていた。
ノガワは少しそのネズミを見て考えた後、ポケットに入れておいた夕食を取り出す。
出された食事を見て、ネズミは疑うようにノガワを見つめた。
「……チュゥ」
数秒間見つめ合った後、ネズミがひと鳴きして寄ってきた。
その様子を見ての側は微笑み、手に持っていた夕食をネズミに差し出す。
ネズミはスンスンと差し出された夕食の匂いを嗅ぎ、ノガワの手から食事を奪い取った。
「おぉ。君もお腹減ってたんだねぇ」
そう言いながら、持っていた他の食べ物も置いていく。
ーーどうせだから、明日の朝の分を補充しておこう。
ネズミが食べ物を食べていることを見ながら、ポケットに自分用の食料を入れていく。
「チュゥ~」
食料を収集していると、ネズミが足元にすり寄ってきた。
まだ食べ足りないのかと思ったが、食料を見せても食べようとしない。
ただただ体をノガワに擦り付けるだけ。
「ん~?どういう事??」
ノガワが意図を図りかねていると、
《スキル『テイム』を獲得しました》
そんな声が頭に響いた。
ノガワはすぐにその言葉の意味を考察し、
ーースキルか。僕の元々持ってたのは固有スキルだから、またそれとは別ってことだよね。ちょっとステータス見てみるか。
「ん~。大して変化はなしかぁ」
見てみたところ、スキルの項目がなしから『テイム』というのに変わっただけだった。
それ以外の変化なし。
ーーまあ、そんなモノだよねぇ。
「チュゥ~」
ノガワが思考の海に沈んでいると、無視されていたネズミがノガワの足を叩きだした。
ノガワは首をかしげる。
ーーん~?何だろう?何をしてほし……もしかして
「もしかして、テイムをして欲しいとか?」
「テュゥ!」
その通り!
といわんばかりにネズミは直立するように、後ろ足2本で立つ。
ノガワは少し悩んだ後、
「使い方は良く分かんないけど、試してみようか。……テイム」
テイムと呟いた瞬間、ノガワの腕から何か力が抜けるような感覚があった。
それから、ネズミとの繋がりが出来たような気持ちになる。
ーー成功したんだよね?
「チュゥ!」
ネズミが前足の1本をあげる。
それは、ノガワの野考えを肯定しているかのよう。
ーーお互いに、気持ちがある程度分かるようになってる?
「チュゥ!」
また前足をあげる。
どうやら、本当にネズミはノガワの考えを読めているようである。
ーーなんか、ネズミと意思疎通できるなんて、本当に異世界に来たんだって時間できる。
「それじゃあ、仲間になったことだし、君に名前を付けよう。君の名前は、ラウス、とかどうかな?」
「チュゥ!!」
喜んでいるのが伝わってくる。
因みに、名前はラットとマウスを組み合わせた感じだ。
ーー喜んでくれるなら、それでいいか。……さて、そろそろ
「いいもんあるかなぁ?」
そろそろ部屋に戻ろうかと思ったところで、昼に聞いた兵士の声が聞こえた。
ノガワは素速く棚の中に身を隠し、兵士に見つからないことを祈る。
兵士は独特なリズムで歩き、食堂へと入ってくる。
「ふんふぅ~ん。良い感じに酒が回ってきてるぜぇ」
昼の厳しい声とはうって変わって、その声はどこか陽気。
ーー酔っぱらってる?
ノガワはそう推測したが、確かめる訳にもいかず音を聴くことしかできない。
「いやぁ~。昼はアホどもの洗脳で疲れたし、こんくらいはしねぇとなぁ。いやぁ~。バカなガキどもで助かったぜぇ」
ーーバカ?アホ?口が悪いなぁ。
ノガワは口角をひきつらせながら隠れる。
が、
ーーん?ちょっと待って。今、洗脳って言ってた?
大事なことにやっと気づいた。
兵士は確かに、洗脳と言っていた。
「あいつらバカだし、痛め付けても問題なさそうだよなぁ。ちょっと激しめの戦場を提案してみるかぁ」
酔った兵士はそんなことをいいながら、食料を探しているよう。
ノガワは話が気になり、隠れることより話を聞く方に集中してしまう。
そのせいで、
バタンッ!
ーーやばっ!?
聞き耳をたてようとして扉に近づいたら、間違えて扉を開けてしまう。
「あぁ?なんだぁ?」
兵士が音に気づき、近づいてくる。
ーーど、どうしよぉぉ!!
ノガワは辺りを見回して、
「……あれぇ?気のせいだったか?」
兵士はそう言って、キョロキョロと周りを見回す。
それから、首をかしげながらも外へと食料を持ち出していった。
数十秒後。
「………ふ、ふぅ。よかったぁ」
地面に寝転んでいたノガワが立ち上がる。
ノガワは、どこかに隠れてる時間はないと判断して、一か八か、床に寝転ぶという賭けに出たのだ。
そして、相手が酔っていたこと、暗かったことが幸いして賭けに勝った。
「そろそろ戻ろうかな」
「チュッ!」
ノガワは自分の部屋へ戻ることにした。
兵士が来てからどこかに行っていたラウスが鳴いて応える。
「ん?ラウスは一緒に来ないで、ここで待機しててね」
「チュゥゥッ!!!!??????」