42.本当に良すぎて、利用しちゃいそう
次の日。
ノガワは自然と目が覚めた。
ーーああ自然に起きたからか分からないけど、昨日よりも身体が楽な気がする。
「さて、今日も頑張りますかぁ。………そのためにもまずは、朝食かな」
エネルギー補給は大事。
今日で魔王領に帰るのだから、この長い旅の報告もしなければならない。
それに、最後の簡易人側の食事を楽しみたいという気持ちも。
「そういえば、命狙われてるんだっけ?寝てたらすっかり忘れちゃってた」
着替えていると、作事の夕方のことを思い出した。
ノガワは窓から外の様子を見てみる。
ーーあの男の人はいないかな。なら、早く朝食を食べて、見つからないうちに出て行っちゃおうか。
と言うことで準備が終わればすぐに朝食をとり、持って帰る荷物を持つ。
それから、宿から出て、すぐに、
ーー男の人いるかな?………よし!いないね!!
男がいないことを確認。
いないことが分かったら、即座に駆け出す。
ーー町から出ればおってこないでしょ。門まで行けば僕のカチだねぇ。
そんなことをおもいながら走る。
すでに目の前に門は見えている。
後は、この門を越えれば、
「死ねぇぇぇ!!!!!」
ノガワの心の油断を突くように、横から声が掛かる。
ノガワは驚き、少し遅れて身体をひねる。
明らかに遅れた動きだったが、
ノガワの身体に痛みはない。
だが、足元に、赤い液体が流れていた。
ノガワが恐る恐る顔を上げると、そこには昨日の男と、腹から血を流す見知らぬ女性、そして、それを見て驚愕の表情を浮かべている男性の姿が。
「ひっ、ひぃいぃぃ!!!!」
「あっ!待て!!」
悲鳴を上げながら、女性の隣にいた男性が走って逃げる。
それを、男は追いかけて走った。
どうやら、運良くノガワの姿は目撃されなかったようだ。
ーー町にやってきた人を門で奇襲。凄く大胆だねぇ。
今回のように2人もいたら、攻撃が届いていない方には逃げられてしまう可能性が高いというのに。
ただ、もしかしたら、この町にはあまり複数人で人が来ることがなく、男としても2人来ていたのは予想外だったという可能性も考えられるが。
「まあ、どちらにせよ運が良かったねぇ。………いろんな意味で」
ノガワが笑みを浮かべながら振り返る。
そこには、先ほどの男の刃物に一瞬だけ映った、震えながらこちらを見る女性の姿が。
知らない人だが、左手に刃物を握っているので、ノガワを殺しに来たことは間違いないだろう。
「お姉さん。どうしたのかなぁ。そんな刃物なんか持って」
「あ、あなたは、町の秘密を知ってしまった。だ、だから、死んで貰います」
そうは言いつつも、女性はノガワの目を見つめるだけでなかなかその刃物を突き出そうとはしてこない。
この震えようから考えて、おそらく1度も人を殺したことが、というより人に刃物を向けたことがないのだろう。
ーーお姉さんも大変だねぇ。村を守るために、こんな震えながら人に刃物を向けなきゃ行けないなんて。
「………イヤアアアアァァァァ!!!!!」
イヤって言いながらも走ってくる女性。
どうやら決心がついたようだ。が、
ズルッ!
「「あっ!」」
女性は滑って、身体が傾く。
そして、刃物がそのまま地面に、ズボッ!と。
「「……………」」
転んだ状態の女性とノガワが無言で見つめ合う。
なんとも言えない雰囲気だ。
ーーはっ!行けない。こんなチャンスを逃す手はないよ!!
「大丈夫?ケガない?気をつけてね!」
「あっ。はい。ありがとう。……って、ちょっと待って!!」
ノガワは女性の制止が聞こえる頃にはすでに走り出していた。
女性は転んでいたことと、心配されて気持ちが変な方向に行ってたこともあり、追いかけるのにかなり出遅れた。
そのため、ノガワが圧倒的に有利。
しばらくすると、声も聞こえなくなった。
「………ふぅ。逃げられたかな?」
どうやら女性から逃げることには成功したようだ。
だが、まだここで安心することは出来ない。
道の先に、男が走って行っているのだ。
もしかしたら、町へ戻ってくるとことばったり遭遇してしまうかも知れない。
ーーちょっと脇道を通りながら進むかぁ。
ノガワは街道から外れ、木の茂る場所を歩いて行く。
ただ、道は見える程度の深さを歩いているので迷うことはない。
しばらく歩いていると、見覚えのある姿が視界に入る。
例の男だ。
1部が赤く染まった服を隠そうともせず、大股で歩いている。
その顔はどこか不機嫌そう。
おそらく、追っていた男性を逃がしてしまったのだろう。
ノガワは木の陰に隠れ、じっと男が去るのを待つ。
「………行った、かな」
《スキル『存在感低下』を獲得しました》
ノガワが男が見えなくなったのを確認したところで、頭に音声が響く。
声は出さなかったモノの、驚きでびくりと肩が上がる。
ーーび、びっくりしたぁ~。新しいスキルは嬉しいけど、タイミングをもう少し考えて欲しいね。
誰が考えるのかは分からないが、ノガワはそんなことを思う。
それから、後ろを何度か振り返りつつ、街道に出て歩き出した。
ーーいやぁ。良い村だったねぇ。本当に良い村すぎて、魔王軍として利用しちゃいそう。




