41.旅人はよく巻き込まれる
「おら。どうした!早く出しやがれ!!」
「う、うぇ~。こ、この事は、町の人たちは知ってるの?」
腰に手を当て、財布を探るような演技をしつつ、ノガワは尋ねる。
何かしてきてもすぐに対応できるように、目線はシッカリと相手の目に向けている。
ーーこういう賭けみたいな事はしたくないんだけどなぁ。まあ、仕方ないか。魔王軍で活動していくなら、こういう危ない橋は何度も渡らないと行けなくなるだろうし」
「町の奴らは知ってはいるだろ。だって、俺に話しかけてきた奴らは、全員消えちまうんだからよぉ」
ーーうわぁ。さりげなく消えちまうとか言ったよ。
どうやら、金を出しても命は助けてくれないようだ。
もしかしたら、金を出して助かったと思わせたところで切りつけ、相手を絶望にたたき落とすことが好きな変態タイプかも知れない。
「はぁ。仕方ないな。これでいい?」
十秒ほど経っただろうか。ノガワがやっと小銭を1枚取り出す。
もちろん、そんなはした金でこの男が満足するはずがない。
男は顔をゆがめ、
「あぁん?お前、馬鹿にしてんのか?」
「まさか、ただ、……時間が稼ぎたかっただけだよ!!」
ノガワはそう言うと、男に背を向けて走り出した。
金を探す演技をしながら、少しずつ後ろに下がっていたので、そこそこの距離は出来ている。
しかも、運の良いことに、
「待ちやが、うわっ!?」
ドテ~ン。
ノガワを追いかけようとした男が、盛大に転んだ。
その隙を逃すことなく、ノガワは路地裏を脱出。
それから、
ーーコレで諦めるかな?……ないな。諦めるわけないよね。町の人たちも止めたりしてないみたいだし。
諦めないならどうするか。
おそらく、ノガワの行動を予測して、宿の前で待ち伏せをしたり、色々面倒なことをしてくる可能性が高い。
ならば、時間をおいて相手に諦めさせるか忘れさせるしかない。
ーー明日まで生き残れば良いんだよ。流石に町を出ておってくるなんて事はないだろうからね。
もし他の村や町でノガワが騒いでも、こちらの町は知らぬ存ぜぬで押し通すことが出来る。
町のモノは町の評判を下げたくないだろうし、他に知っているモノは全員死んでいるだろうから。
「はぁ。宿に帰るのは、今日遅くかなぁ。図書館行こう。図書館」
ノガワは当初の予定通り、図書館へ向かった。
そこそこの人数がいて、見つかりにくい場所と言ったらここくらいだろう。
ーー本棚とか色々あって、隠れるのにも適してそうだしね。
ノガワは、スキルの本のある場所へ一直線。
初級のスキルの本ではなく、分厚いスキルの辞書のようなモノをとる。
それから、索引から新しく手に入れたスキルを探し、効果を確認していく。
………。
数時間後。
閉館時間と言うことで、ノガワは図書館から出て行かなければならなくなった。
ーーそういえば、情報屋さんが旅人はスキルをほしがるのが普通みたいな感じで納得してたけど、確かにスキルは必要だね。こんな状況に旅人はよく巻き込まれるんだろうなぁ。
ノガワは旅人の大変さを実感しつつ、少しだけ出ている夕日を頼りに宿へと向かった。
もちろん、常に周囲に気を配り、先ほどの男がいないかどうかも確認している。
ーーんっ!あれは!!
あと少しで宿にたどり着く、というところで、ノガワは立ち止まった。
そこには、宿の前をうろつく男の姿が。
ーー宿の場所は分かってたのかぁ。こうなると面倒くさいなぁ。宿には入れないよ。
ノガワは建物の陰に身を隠し、どうにか宿へ入れないかと考える。
そうしていると、
「チュッ!」
「おお。ラウス?どうしたの?」
胸元からラウスが飛び出してきた。
突然のことに驚くが、ラウスはそれに答えることなく、地面へ飛び降りてかけだした。
そして、家の塀などへはねていき、高い位置からダイブッ!!
「ギャアアァァァァ!!!?????」
悲鳴が響く。
悲鳴の主は、ラウスのダイブを顔面にくらい、顔を押さえてうずくまっている男。
そう。宿の前をうろついていた男だ。
ーーありがとう!ラウス!!
その隙を逃さず素速くノガワは走り出し、宿へと駆け込む。
もちろん、途中でラウスは回収した。
「いやぁ。助かったよラウス。ありがとねぇ」
「チュゥ~」
ノガワはラウスを優しく撫でながらお礼を言う。
それから、ラウスに付いていた男の血を洗って流してやり、
ーー頑張ってくれたし、ご褒美を上げないとなぁ。
「ほら、いっぱい食べなぁ」
「チュゥゥゥ!!!!!」
宿にお金を払い、少し多めにご飯を出して貰った。
宿の店員もノガワを殺しに来るかと思ったが、流石にそれはないようだ。
ーー町の評判を落とさないように殺しに来るかと思ったけど、流石にそれはないんだねぇ。……もしかして、僕が狙われたのを知らない、って言う可能性もあるかな?
あの男はおそらく、脅迫して金を出させたら全員殺していたと考えられる。
つまり、死んでいないなら脅されていないと判断したのだろう。
ーー僕の見た目も大して強くはなさそうだし、逃げられるとは思わなかったんだろうなぁ。




