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カーテンの隙間から漏れる穏やかな日差しに目を覚ました。
藁の上で寝た経験のある俺はすぐに、今いる場所が温かい自宅の布団であるとわかった。
当たり前だった幸せを噛み締めるように二度寝を試みる。
(また、この世界に帰ってこれるなんて思わなかった…… 異世界では腕を燃やされたし、これからも危険な事がまってるんだろうな。
そういえば、次からどうやってあの世界にいけばいいんだ? 家からの、通いなのか……。 あれ?今日何曜日だっけ…… )
「………… 」
「ヤバい!!」
慌てて飛び起き、時計をみると、8時を過ぎている。
「遅刻だ!!」
俺は急いで学校に行く準備を整え、家を飛び出した。
学校につくと、まだホームルームは始まっていないようだった。なんとか間に合ったと、教室に入ると周囲のざわつきが止まり、視線が集まるのがわかった。
「おっす、ホーリー!」と竹口が手をあげる
竹口はまるで何事もなかったかのようにしている。
「お、おう」
席に腰をおろすと、竹口は突然、頭を下げた。
「昨日はありがとな。本当助かったよ」
「え? な、なにが?」
ヤバイ、異世界の記憶があるのかもしれないと内心焦る。
「お前、カラオケの途中で俺が倒れたから家まで運んでくれたんだろ?」
いったい、おっさんは竹口になんの魔法をかけたんだ。
「そ、そうなんだ、大変だったよ。大丈夫だったか?」
状況がわかるまでは話を合わせようと決める。
竹口はため息をついた。自分に呆れた様子で話始める。
「やっぱり、慣れないことはするもんじゃないな。実はおれああみえて、相当緊張してたんだよ。それで無理をしすぎて倒れちゃったんだとおもう。キャパオーバーみたいなもんかな。だからだとおもうんだけど、昨日のこと全然覚えてないんだ」
「ま、まぁ、仕方ないよ。それは。俺も緊張してたし」
楽しみにしていた竹口を思いだし、罪悪感を感じた。竹口は緊張どころか、誰よりも楽しんでいたのに俺の都合で台無しにしてしまった。
「俺のほうこそ、ごめん」というと竹口は驚くように目を丸くした。「なんで、ホーリーが謝るんだよ。でも、惜しいことしたよ。せっかく宮上に告白できるチャンスだと思ったのに」
それをきいて罪悪感が薄れる。結果的にフラレるのを阻止できてよかったのかもしれない。
「次もあるさ、その時告白しようぜ!」
「そうだな! でもずるいぞ!お前だけ告白して成功させやがって」
「あ……」
(そうだ、俺は魔法のかかった志帆ちゃんに告白したんだった!!)
冷や汗が滴る。
「お前誰からその事を……」
「宮上に決まってるだろ。次は俺達の番だなってアイコンタクトを送っといたよ」
「やめとけよ。それよりこの事を知ってるのは……」
「もう学校中知ってんじゃないか? なんたってお前はこの学校一といっていい美女を落としたんだから。もう学校中の噂だぜ」
「最悪だ……」
「何が最悪なんだよ!最高のまちがいだろ?」
「そんなんじゃないんだって。とにかく……」
おい!と声が聞こえ、顔を向ける。
「矢鍋くん……」
クラス一の不良である。だらしなく着崩した制服にライオンのように逆立てた金髪の髪の毛。苦手であり嫌いな人種だ。
釣りあがった目付きで俺を見おろす。
やばっと言って竹口は顔を伏せる。
「お前、桜田に告白したらしいじゃん」
「え、うん……」
「別にそれはいいんだけどよぉ……」
ドンっと音がした。
「うっ……」
矢鍋の足が腹に突き刺ささり、みぞおちに激痛が走る。
「気に入らないのは、お前みたいな陰キャのゴミが桜田と付き合ってるってガセ情報が流れてることだよ」
「………… 」
(息が…… できない……)
矢鍋は俺の髪の毛を引っ張り、顔を近づける。
「おい、今流れてる噂は全部嘘です。僕は調子に乗って告白したけどフラレちゃいましたって言えよ…… じゃなきゃずっとイジメやるよ」
「なんで……」
「あぁ?」
「なんで矢鍋が、俺と桜田の関係に腹を立てるんだよ……」
「お前……、死ねよ」
矢鍋が俺の後頭部をつかみ、思い切り膝を何度も顔につきだした。
鈍い音が教室に響く。鼻血が飛び出し、クラスにいた誰かの悲鳴が聞こえる。
「やめて! 矢鍋君」
この声は桜田……。
鼻をおさえ、痛みで開かない目をなんとか開き志帆ちゃんをみようとするが、容赦なく膝が顔に入り、痛みと恐怖で頭の中が真っ白になった。
怖い………
「ごめんなさい……」
「ああ!?」
攻撃が止んだ。
「桜田さんとは付き合ってません」
「お、ついに白状しやがった。じゃあ、お前が嘘ついてこんな情報流したんだな? あいつの顔見て言えよ」
再び髪の毛を捕まれ、顔を桜田に向けられる。
「はい……… 嘘つきました。ごめんなさい」
「おい、お前本当にこんなのにダセーやつに告白されてオッケーしたの?」と矢鍋が桜田に問いかける。
「して…… ないよ。告白されたけど、オッケーはしてない」
矢鍋はぎゃははと笑った。耳に残る嫌な笑いだ。
「とんだ嘘つきだな。二度と調子にのんなよ」といって俺に唾をはき、教室をあとにする。
志帆ちゃんは俺と目を合わせず、自分の席に戻っていった。
俺は耐えきれず鞄を持ち、教室を飛び出した。
まぶしい朝日に瞼をつぼめる。
なんだ……、夢か……
浮かびあがる生々しい記憶に俺は自宅の布団から飛び起きる。時計を見ると時刻はまだ8時を過ぎたばかりだった。
「寝すぎじゃ、お主はやはり小屋で起き方がいいようじゃな」
おっさんが何か言いたげな表情で俺を見ていた。
聞き覚えのある声に意識をハッキリとさせ、確信する。
「そうか……、おっさんが……」
「うむ…… そういうことじゃ」
「ありがとう……、俺、あのままだともう学校に行けなくなってた」
「ずいぶん派手にやられたの。それにしても、お前さんはつくづく上手くいかんな」
「うん……、俺これからどうすれば……」
「そんなことわかりきってるじゃろ」
「え?」
「もっと強くなるんじゃ、今よりもっと」
「はは、矢鍋を倒せるように?」
はぁ、とため息をつき「未熟そのものじゃな」と顔を左右にふっている。
「じゃあ、なんだよ?」
「大切な人が離れていかないようにじゃ」
目から涙がこぼれた。理由はわからない。悔しいのか、悲しいのか、情けないのか、全部かもしれない。
「なれるかな? 俺に……」
こんな自分を変えたい。
「それは、お前さん次第じゃ」
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