始動
ワイワイとにぎやかな声で意識を取り戻した。チクチクと首元になにかが刺さっているのがわかる。
「ここは…… 」
お決まりのセリフでうっすら目を開けると、ここは小屋のような場所で、俺は大量にある藁の上で寝ていたことがわかった。
意識がはっきりしてくると、ワイワイではなく、ブヒブヒと聴こえる。
「おわっ!? え? ブタ小屋!? なんで!?」
状況が理解できなかった俺は、とにかくおっさんを探そうと小屋を飛び出した。
外は木や草でおおわれていて、その先には光を反射させ、眩しく光る川が流れているのが見える。
よく目を凝らすと、川辺には見覚えのある背中があった。
川に近づき声をかける。
「おい!おっさん。なんでブタ小屋なんだよ」
川辺の男が振り向く。
「おお、やっと起きたか。よかった」
今にも泣きそうな顔の竹口がそこにいた。
「あ、やっぱりその体のままか、竹口まで連れてくることないだろ!」
「どういう意味だよ!俺の体がだらしないっていいたいのか? これでも毎日腹筋してんだぞ」
話が噛み合わない。
「いや、え? 竹口なのか?」
「なんだよ、頭でもうったのか?というかやっぱり、俺達って誰かに連れて来られたのかな?」
「え? お前はおっさんじゃないのか?」
「おっさん? 変だぞお前。俺はお前と同じ高校生だ。それよりここはどこなんだろうな」
「いや……、おい竹口。もう一人髭の生えた、自分を魔法使いとか言う変なおっさんいなかったか?」
「いないけど、そのおっさんが俺達をこんな場所に連れてきたのか?」
「ま、まあ、そんなとこなんだけど……」
「ゆるせねぇ……、だとしたらカラオケ店の前でおれは眠らされてここに連れて来られたのか。せっかく宮上もいたのに……」
「そ、そうだよな。ゆるせないよな」
適当に話を合わせながらキョロキョロとおっさんを探す。
「おい!そのおっさん見つけて俺らで警察つき出そうぜ。そしたら、新聞にのるかもしれないぞ」
「ん?いや俺はいい……」
おーい、とおっさんの声が聴こえ、振り向くと手をあげてこっちに近づいてきていた。
「おっさん!!」
「なに? こいつが!?」
俺は竹口の反応を無視して、おっさんに近づこうとすると竹口が止める。
「まて、お前一人じゃ危険だ。ここは俺ら二人で協力するんだ」
「違うんだ竹……」
事情を説明しようとした瞬間、竹口が前にでる。
「おい、誘拐犯! お前の目的はなんだ? うちの家庭はごく普通の公務員で三人兄弟なんだ。金なんかないぞ」
俺は再び事情を説明しようと試みる。
「違うんだ竹……」
おっさんが右手を竹口の方へ向けて魔法をかける。
「わるかった。お主はもう帰ってええぞ」
竹口の体が白く光ったと思ったら、その場から姿を消した。
「おい! 竹口になにしたんだよ!」
「なにって元の世界に返したんじゃ。大丈夫じゃ、自宅の布団で目を覚ますようにしておいたからな、あの男のことだ、夢だとおもうじゃろ」
「そ、そうか。無事ならいいんだ。それよりここはどこなんだ?」
「ここは、魔法の国ラジタニアじゃ」
「魔法の国ラジタニア…… それで? こんなとこで目を覚ました俺はなにをすればいいんだ?」
長い髭を擦りながら答える。
「すまんかったな、うちのもんも人間にはまだなれていなくてな。いきなりお主が現れると殺されると思って、街の外れに呼ぶことになってしまったんじゃ」
「物騒だな。歓迎されてないことはわかったけど、そんな環境で修行なんてできるのか?」
「大丈夫じゃ!特別講師をよんでおる」
そういっておっさんが手を叩くと、今度は赤い光が目の前を照らした。
「なんだよ………」
赤光がおさまると、スタイルのいい女性が現れる。
「!!?」
綺麗な人だと目を奪われる。スラッと長い手足にサラサラな赤い髪、鋭い目付き、そして、暴力てきともいてる胸をした女性が立っていた。
思わず女王さまと呼びたくなる容姿だ。
「おじいさま、教える子ってこれのことですか?」
身長は俺の方がかろうじて大きいはずなのに、遥か高みから女王様は私をお見下しになられている。
「そうじゃ、たのんだぞ。メラ」
メラと呼ばれている女性は値定めするように俺をみている。
しかし、俺の頭はSっ気の強い謎の女性の胸で埋め尽くされていた。
(しかし凄い胸だな、思春期の俺には刺激が強すぎる。なにカップあるんだろう、D?いや、 この感じはもっとだな、Eか?まさか……)
「Fね」
「え?」
「まぁ、そうじゃろうな……」
おっさんががっかりしてように俺をみている。
「まさか…… また俺の心の声を……」
「心の声?なんだそれ。 貴様の魔法素材がFってことだ。そんな事も知らないでよくこれたな? 燃やしてやろうか?」
手に炎をまとわせている。
「ちょっと、おい、おっさん、説明してくれよ」
同時に命の危機だと、目線でおっさんに助けを求める。
「魔法素材Fは最低評価じゃ、つまり、魔法の素質ゼロってことじゃ」
「そりゃそうだろ、人間なんだから、というか誰なんだよ、今にも俺を燃やそうとしてるこの人は?」
「F素材のゴミの分際で生意気だ、やっぱり燃やすか」
さらに炎を強めると、おっさんが「その辺にしとけ」と止めに入り、謎の女はようやく火を消した。
「助かった………」
「ははは、気が強いじゃろ? メラはわしの孫なんじゃ。今は魔法士官学校で教官をしておっての、お主を鍛えるにはちょうどいいじゃろ?」
「孫!? 顔というかなにもかも、かけ離れすぎだろ!てことはこの人もおっさんと同じ、魔導師なのか?」
女王様、いや、メラ様が鋭く睨みつける。
「おい、貴様、そんな簡単に魔導師になれるとおもっているのか?」
「いや、俺しらないし、それにおっさんは魔導師だって……」
はぁ、とため息をついてこの世界の魔法階級について説明をはじめる。
「いいか? この国では、見習いの下級魔法士から上級魔法士までいる。
魔導師も同様にいるが、なるにはその魔法士達のなかで、さらに魔法に特化しなければ魔導師にはなれない。
ついでにいうと、その魔導師よりさらに上に存在するのが聖魔導師だ。聖魔導師はこの国でも数人しかいない貴重な存在といわれ、この国を陰で支えているとまで言われている。
おじいさまはその聖魔導師に位置している。これだけ言えば頭のわるい貴様でも理解できるだろ?」
「正直なんだかよくわからないけど、おっさんが凄いってことはわかった」
「相変わらずお主は鈍いな。ずっとわしの魔法をみてきて普通じゃないことくらいわかりそうなもんじゃがの」
おっさんは誇らしげにしている。
「本当にあんなおっさんが……」
にわかには信じられない。
「まぁ、いい。おじいさまのたのみだ。頭も顔も悪そうな貴様に魔法の指導をしてやる」
「へ?」
メラさんはなにを言って……
「お主は魔導師になるんじゃよ」
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