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「付き合ってほしいんだ……。俺と」
花火大会に誘うだけのはずが、告白を口にしていた。自分の声を疑う日がくるとは思わなかった。
付き合ってほしい!? なにを言ってんだおれわ!!
まさかと思い、後ろを振り向くと竹口があくびをしながら右手をこっちに向けている。
きっと心で思った言葉が出る魔法をかけたに違いない。まさか、あの悪夢を再現するとは。
「おい、トイレ行ったんじゃないのかよ。それに、この状況で笑えない魔法かけやがって」
竹口はにやりと笑って、右手を向けながら前を向けと顎で桜田を指した。
「覚えてろよ……」と捨て台詞のような言葉をはき、再び桜田の方に姿勢を向き直す。
気まずすぎて、顔を見れない。モニターのあかりが赤になると怒っているようにもみえ、青になると悲しんでいるようにみえた。
終わりだ……
「ごめん、急に変なこといって……」
視線をしたに向けて、全てが終わったと絶望する。
今さらだが、後悔もしていた。告白をしたことではなく、胡散臭い魔法使いなんて頼った俺が馬鹿だったと……
「私でよければ……」たしかに、そう聞こえた。
「うん、そうだよね…… え?」
「恥ずかしいから、同じこと言わせないでよ」
女子さながらの満点のリアクションを見せる。
そして、桜田は本当に恥ずかしそうに体をつぼめ、チラチラとこっちをみている。
初めてみる桜田の表情だ。可愛いすぎる。脳内が桜田で埋め尽くされたのは言うまでもない。
「それって、つまり……。オッケーってこと?」
確認をすると、視線を反らし、再び恥ずかしそうに目線をあわせる。
「うん…… いいよ 」
「ちょっとあんたやったじゃない!」
宮上が興奮して背中をたたく。嬉しさから痛みは感じなかったが、反射的にイタっと反応し「夢みたいだよ」と自分の頬をつねった。
普通に痛い。どうやら夢ではないらしい。
「ちょっとあんた、どんな魔法つかったのよ!」
宮上の一言で、浮かれていた俺に疑念が沸く。
「よかた、よかた」と他人事のような声が後ろから聞こえる。
「まさか……」
振りかえると竹口が眠そうにあくびをしている。
「これで、成功じゃな」
「ちょっとごめんね」
竹口の腕をひっぱりを廊下につれだす。
「まさか、俺だけじゃなくて、桜田の心も操ったりなんてしてないよな?」
「はて?なんのことじゃ?」
「だから、桜田が告白をオッケーしたのっておっさんの仕業か?」
「そ、そんなわけ……」
竹口はわかりやすく動揺して目をそらす。
「やっぱり……」
「すまん、ショックか?」
「そりゃそうだろ。まぁ、おっさんの気もちは嬉しいけど、こんなことで告白を成功させたって意味なんてないんだ」
「どゆこと? お前さんは、告白を成功させるために頑張ったんではなかったか?」
「桜田はおっさんの魔法にかかってオッケーしたんだろ? それは、魔法で好きになってるだけであって、本当に俺を好きわけじゃない。そんなこと望んでないよ……」
竹口は生えていない髭をさする仕草をして、少し間をあけてこたえる。
「ふむ、そう言われたらそうかな? じゃが、お主があのまま花火に誘ってオッケーされても、最後はどうせフラレるだけじゃぞ?」
「もういいんだ。魔法とはいえ、成功させてくれてありがとな。なんか俺も諦める決心がついたわ。きっと花火大会に来てくれたのは桜田の気まぐれだ」
「あきらめる?」
「ああ、今までありがとう。そんなことより、そろそろ戻ろう」
これ以上話していると泣きそうだ。
桜田たちのいる部屋に戻ろうとすると、「まてい」といってひきとめる。
「なんだよ」
「お主じゃ、あの子は無理じゃよ」
「わ、わかってるよ… たから諦めるんだ」
「いや、わかってない。無理なんじゃ」
「うるさいな! わかってるっていってるだろ!」
叫んだ自分の声が虚しく廊下に響く。
「そうやけになるな」
「なってねぇよ、ただ……」
悔しかった。おっさんに無理だといわれ、納得してしまった自分が情けなかった。
竹口はむせたような咳払いをして改まる。
「ゲホッ、今のお主では無理じゃといういみじゃ」
「今の俺?」
「さよう。運動だめ、勉強だめ、性格すけべ、これでどうやって成功するんじゃ?」
「スケベはいいだろべつに……」
「わし気づいたんじゃ、このままのお主じゃ、何度時間をやり直しても無駄じゃ。原因は過程ではなく、お主本人にある」
「それは……」
「そこで、わしに考えがある」
「もういいよ。魔法は……」
「違う。わしの世界で鍛えてやろう」
「お断りさせていただきます」
即答した。これ以上このおっさんに関わるのはごめんだ。
「まぁ、話をききたまえ、迷いきった子羊くん」
「やかましい」
「この世界での暇つぶしも飽きたし、ワシもそろそろ帰らないといけないんじゃよ」
「一人で帰れよ。なんで俺まで……」
「お主!!」
おっさんは声を荒げた。
「な、なんだよ」
「いいのかを本当にこのままで……」
「それは …… 俺だって本当はこんな自分が情けないとは思ってるよ」
「そうじゃろ、もう自分の中で答えはわかってるはずじゃ」
「で、でも魔法使いの世界ってどこにあるんだ? それに学校もあるし…… 」
「ここまでくると、呆れてものも言えんな。お主は今までなにをしとった?」
「あ、そうか ……」
「そうじゃ、時間を戻してくればなんの問題もあるまい。わしのいる世界で修行して成長し、今度こそ告白を成功させてみせよ」
「わかったよ……。おれやるよ。絶対成長して、今度こそ告白を成功させるよ」
「ふっ……」
「は?」
おっさんは鼻で笑ったあと、咳払いをして呪文をとなえる。
「そのいきじゃ。戻りたまえ我が家に!!」
おっさんが竹口のままなことに気がつく。
「あ!ちょっとまて!竹……」
白く強い光でおっさんと俺の体がつつまれる。
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