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時間が戻り、高だかと上げた竹口の右手は静かに下がっていった。
「おほん、じゃあ、いきましょうか?」
竹口(謎のおっさん)は咳払いをして恥ずかしそうにカラオケ店に入っていた。
桜田と宮上はそんな竹口の異変には気づかず後に続いた。
この先大丈夫なのだろうかと、一抹の不安を抱えながらも俺も店内に入る。
受付を済ませて部屋に入ると、宮上は暗くなっている部屋の照明をつけて「明るくするねー。なに歌おっかなー」と言って、声を弾ませていた。
過去にも経験したことのあるはずなのに、俺は桜田と同じ空間にいることを意識して緊張していた。桜田とは普段学校では話さない分、近くにいるだけでまさに夢のようだった。
干渉にひたっていると、突然竹口(謎のおっさん)が声を荒げる。
「おぬし!」
「え?わたしこと?」
突然変な口調で話しかける竹口を見て戸惑いと驚きの表情をうかべている。というよりは不気味がっているようにもみえる。
「そうじゃ、おぬしじゃ。電気はつけんでいい。暗いままにしておけ」
「………え?なんで?」
おっさんは少し考えたあと「それは……。秘密じゃ。グフフ」と不気味に笑った。
空気も時も止めたおっさんの危険な発言に周りは凍ったように固まった。
「おい、なにいってんだよ。ドン引きしてんだろ?」
その状況に耐えかねて俺はすかさず竹口の耳元でそう言った。
「なにを言っておる。ワシはこういう光に弱いんじゃ。あまり光を浴びすぎると魔法が解けてしまうかもしれん」
「なんだよそれ。先にいえよ。どうすんだよこの空気。それにおっさんのせいで竹口の印象がどんどん下がってるぞ」
「うむ、そうじゃな…… なんとかしてくれ」
「えっ? おれが?」
「そうじゃ、おぬしはワシに頼ってばっかでなにもしとらん。少しは自分で道を切り開いてみせよ 」
なにかしら成功してから言うべき言葉を平然といい放ち、髭のない顎を擦っていた。
「…………」
見捨てようかとも思ったが、これまで時間を止めたり、過去にいけたりと、実際に魔法のような力を体験している俺は、おっさんの光に弱いという発言も信じるしかなく、助けざるおえなかった。
「あー、そうそう。コイツ最近ゲームのしすぎで光を浴びると目が痛いらしいんだよ」
俺の苦し紛れの発言に宮上は若干の恐怖すら帯びていた表情から少し柔いでいった。
「そ、そっか。それならそうと言ってよ!でも暗くしてモニター見る方が目に悪くない?」
まさにその通りだ。
だが、ここで引くわけにはいかない。
「そ、そういう光は、ゲームで慣れてるから大丈夫なんだよ」
「へんなのー。ま、わかったわ。そのかわり変なことしないでよね」
「す、するわけないだろ」
恐る恐る桜田の方を見ると桜田も安堵の表情を浮かべていて俺はひとまずホッとした。
竹口(謎のおっさん)がまたしても和やかになりつつあった空気を切り裂いた。
「ところでカラオケってなにをするんじゃ?」
殺意すら芽生えるおっさんの発言に、今回は庇いようがないと目をそむけていると、宮上は「歌うに決まってんでしょ。それよりあんたいつまでそんな変な喋りかたしてんの? なんのノリ?」といって笑った。
俺はとりあえずなにもしないで座っててくれと竹口(謎のおっさん)に懇願してカラオケが始まった。
先に歌うのは誰かといった定番の下りは必要なく、宮上は「私から歌うね」と言って率先してデンモクに曲を入れた。
本来の竹口なら、ここで宮上と、歌う順番の取り合いになりそうだが、今この空間に宮上の意向に反対する人はいない。みんな心よく承諾した。
歌が始まるとおっさんはなぜか驚いた様子でモニターを食い入るように見つめている。見ると、妖精っぽいコスプレをした女性のミュージックビデオだった。
そんなおっさんの様子をシカトして、俺はモニターの光が桜田の横顔をあの時の花火のように色鮮やかに輝かせているのをチラチラと見て鼓動を早くしていた。
「今じゃ……」
モニターに集中してたはずのおっさんが俺にそう言った。
「え?」
「花火誘え」
「いや、今じゃないだろ。まだ始まったばっかだし、これで誘っても変わらないだろ。それに今のところおっさんになった意味全くないし」
「大丈夫じゃワシを信じろ。チャンスは今しかない」そういって曲の途中で竹口は席をたった。
これで誘ってオッケーもらったとしても、あの時と同じなんじゃ…… と不安を抱きつつもおっさんに従うしかなった。
竹口はなぜか桜田の隣に座っていて、桜田は突然席を立つ竹口に「どうしたの?」ときいた。すると「ちょっと、トイレ」と返して意外にも違和感なく席を離れた。
俺はモニターを見る桜田に話しかける。
「あのさ……」
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