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前に出たマリルの顔が青ざめているのがわかった。緊張もしているが、どこか不安気な表情をしている。
「マリル!頑張れ!」
声援もむなしく、「う、うん……」と自信なさげに反応する。
フードの男の戦いに、マリルは心底恐怖を感じたのかもしれない。それによって、対戦そのものが怖くなっている様にみえた。
小柄でヘッドフォンをつけた少年がマリルにあわせて前にでると、そのまま中央に向かった。
「君、怖がってるね……」それがその少年の第一声だった。
表情は不気味な笑みを浮かべ、戦う前から勝利を確信しているようだった。
「たしかにこわいけど、わたし、負けないから」
「ふぅーん。君は隣国のノーマの出なんだ」
えっ?、とマリルは目を丸くして驚いた。
「そ、それがなに? この戦いに関係ないでしょ?」
「いや、べつに。ただ随分のんきだなと思っただけさ」
「それ…… どういう意味……」
「ノーマは内乱の真っ只中だろ? こんなとこで魔法士の訓練なんかしてるけど、家族見捨てて自分だけ逃げてきたのかい?」
「ちがう…… 見捨ててない」
マリルは明らかに動揺している。
「いいや、見捨ててるね。現に君はここにいるし、それに ……」
「うるさい! 私の心を勝手に読まないで!」
マリルが両手を相手にむけると、ヘッドフォンの少年の体が体重をなくしたかのように浮かびある。
声は聴こえなかったが、相手がまた、なにかを言ったのだろうか、マリルの顔がさらにどんよりと曇っていく。
「もう黙って……」
マリルが手を高くあげると、ヘッドフォンの少年がどんどん高く上がっていった。恐らく50メートルは上がっている。
「ヤバイ、あの高さから落ちたらあいつ死ぬぞ」
マリルの様子が普通ではないことが、このまま相手を落としてしまうのではないかと不安を募のらせた。
俺の心を読んだかのように「大丈夫じゃ、もう勝負はついておる」とおっさんは髭をさすった。
呑気な事を言っているおっさんに、勝負がついているのは見ればわかると怒鳴りたくなる。
「心配なんだよ。もし、あの高さから落ちたら死ぬぞ…… 間違いなく」
そんな心配をよそに、空高く上がったかと思えば、ヘッドフォンの少年はゆっくりとしたに下がってきていた。
「よかった。思いとどまってくれたんだな……」
「ちがうわ。あやつはもう魔法にかかっておるんじゃ」
「見ればわかるよ。浮いてんだから」
おっさんは俺になにか言いたげな視線をむける。
「な、なんだよ……」
はぁ、とため息をつき「魔法にかかっているのはおなごの方じゃよ」と指を指した。
「え!?」
「あの少年は、あの子の心を乗っ取ったんじゃ」
「心を乗っ取る? どういうことだ?」
「もー、めんどくさいのう。心を動揺させて、相手を操る魔法をかけたんじゃよ」
「そ、そんな言い方ないだろ。そうか…… そんな魔法があるのか……」
「心理操作の魔法か。あやつもなかなか面白い素材じゃの」
ヘッドフォンの少年は、ついに地面までたどり着く。そしてマリルはメラさんの方をむいて、手を上げた。
「まさか、今度はメラさんに魔法を!?」
おっさんは無言で様子をみている。
「教官、私の負けです」
手を上げたのは降伏宣言をするためだった。
弱者にようはないと言わんばかりに、メラさんは「さがれ」と言った。
ヘッドフォンの少年が帰ったあとも、マリルの表情は変わらず暗かった。
「もう、魔法はとけてるんだよな?」
うつむき、戻るマリルの様子を見つめる。
「そうじゃな…… 」
メラさんが前にでて声を張り上げる。
「お前らの実力はよくわかった。この戦いで、おのおの自分の足りないとこも見えただろう。魔法士試験まで日にちがない。今日の事を教訓に訓練にはげめ。以上だ。解散」
メラさんの言葉をきき、生徒たちが散らばっていった。
「解散? 帰っていいの?」
「どうする? 戦いもおわったし、お主も元の世界に帰るか?」
「気になったんだけど、俺のいる世界にかえるのも、おっさんの魔法で帰ってるんだよな?」
「そうじゃが?」
「光魔法ってそこまでできるもんなのか? 俺も覚えたら異世界に自由に出入りできるのか?」
「…… それは、まだ秘密じゃ。取り敢えず今はワシの魔法で帰ることができるとだけ言っておこう」
真剣な表情でそう話すおっさんを見て、これ以上は深く聞いてはいけないと察する。
「そ、そうか。あともうひとつ。俺、まだ見てない対戦あるんだけど、俺が向こうの世界にいる間こっちの世界で時間は進んでいたのか?」
「そういうことじゃな、前にも言った通り、この世界で時間を戻すと色々面倒じゃからな。使う魔力も桁違いに違うんじゃ」
なるほどと頭を悩ませていると、しびれを切らしたようにおっさんが苛立ちながら髭をさする。
「それでどうするんじゃ!? 帰るのか? 帰らんのか? ワシもこのあと色々やることがあるんじゃ」
「ああ、わるい、わるい。このあとは……」
元の世界に帰ろうと思ってたいたが、マリルの暗い表情が頭によぎり、計画を変更する。
「俺もちょっとやることがあるから、今日はいいよ」
「そうか、そんじゃの」そう言っておっさんはすぐに白い光に身を包み姿を消した。
「おっさん、あんなに急いでなんかあるのか?…… それよりもマリルだ。」
周囲を見渡しても、マリルの姿はない。
(そういえば、探すっていってもどこに行けばいいんだ? 俺、この世界のこと何も知らないんだった。ちくしょう、もっとおっさんに色々質きいとくべきだった…… )
「ねぇ!」
振り向くと、青い髪色に青い水着の女の子が後ろから声をかけていた。腰には一応布のようなものが巻かれている。視線は当然魅力的な谷間へと向かう。
(メラさんには少し劣るが、素晴らしい胸だ)
「は、はじめまして。素晴らしいですね…… 」
しまった、魔法もかけられていないのに心の声が……
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