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再び異世界に戻ってきた俺は、目を疑った。


フードを被った男がパチンと指をならすと、闘志をむき出しにしていた相手の様子が変わり、急に怯えはじめた。

頭を抱えてうずくまっているのは、戦士のように強そうな男だった。勇敢そうな見た目とは程遠い姿が鮮烈に目に焼きつく。


「あの少年の戦いをよく見ておくんじゃ」


おっさんがどういう意図でそれを言ったのかはわからないが、言われるまでもなく目が離せなかった。


「怯えかたが普通じゃない。いったいなにが……あいつは、なにか魔法をつかったのか?」


「うむ、あれは、闇魔法で黄泉よみという技じゃな、古い魔法じゃ」


「闇魔法!? 光魔法と同じ自由魔法ってメラさんが言ってたやつか」


「そうじゃ、あの少年は相手の五感、つまり視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、全てを奪ったんじゃ」


「なっ!? そんなことできるのか?」


「それが闇魔法じゃ。光魔法は人々に幸福と恵みをもたらす。安心、希望、勇気。

そういう意味では与えることに特化した魔法と言えるじゃろ……。しかし、闇魔法は光とは対照的に全てを奪う。与えているとすれば、絶望や恐怖、今あの対戦相手は闇のなかじゃろうな」


自分がされたらと想像して、背筋が凍りついた。見てるだけでも恐怖を感じる。


フードの男ががっかりした様子で話しはじめる。


「なぜ弱いの? 君は魔法士を目指しているんじゃないのか? といっても聴こえないか…… もういいや」


ため息をつき、なにかをぼそぼそと唱えると相手の足元の影が浮かびあがり、首締めて宙に持ち上げる。


「うがっ、あ、……たすけて……」


男の体は浮かび上がり、足をばたつかせている。顔は青ざめ、目からは涙がこぼれている。


「おい! 止めなくていいのかよ? あのままだと死ぬぞ?」


「うむ、そうじゃな…… 」


おっさんも職員もだれも動こうとしない。止めるタイミングを逃しているように見えた。中には恐怖に顔をひきつらせている職員もいる。


「くそっ、なんでだれも助けねぇんだよ……」


気づくと俺は、フードの男を止めようと声が出ていた。


「おい!! やめろよ!」


フードの男が俺に気付き、視線を向けた。本当に光のない青く冷たい目だった。ゼファルドの時とは違った、底知れない恐怖が本能に伝わる。


「やめる? なんで?」


「なんでって、お前、そいつを殺すのか? これはただの対抗戦だろ?」


「そんなこと関係ないよ。弱いやつは遅かれ早かれ死ぬことになる。それが今回だっただけだよ」


影に首をしめられ宙に浮いている男が、体を痙攣けいれんさせ、泡を吹きはじめている。


「くそっ……」


目をつぶり、拳に光をまとわせる。

フードの男は一瞬目を見開き、光魔法に興味をもつ。


「おお、それが光魔法か。さっき君の光魔法見せてもらったよ。君は僕と同じようにまだまだ強くなるね」


「そんなことどうだっていい。いいからやめろっていってんだよ!」


走りだそうとすると、炎がフードの男にふりかかり首を絞めていた影が消える。


これは……、メラさんの魔法だ……。ほっと胸を撫で下ろす。


フードの男はジロリとメラさんを睨み付ける。


「もう、勝負はついている。殺すことは許さん」


「へぇー。じゃあ、教官が僕と戦ってください」


「なに?」


「それで勝ったら、僕はあなたの言う通りにしますよ」


「貴様………」


メラさんがみるみる炎に包まれていく。本気で怒っている。


フードの男の足元が黒くそまっていく。


「そこまでじゃ………」


強い光が影と炎を消した。


「おじいさま……」


「メラ、お主は教官じゃろ。生徒相手にむきになってどうする」


「も、申し訳ありません」


メラさんはばつが悪そうに顔を背ける。


「お主もじゃ、じゃがお主はなかなかの素材じゃな。確かにこの先もっと強くなるじゃろ。じゃが、今のままじゃいつか限界がくる」


「限界? 」


「そうじゃ。魔法は本来、弱き者を救うためにある。今のお主のように魔法を使っていると、いずれ魔法はお主を飲み込み、いうことをきかなくなるぞ」


「僕は救っているんだよ。弱いまま生きていたって悲惨な運命をたどるだけだ。だから僕がここで終わらせてあげるんだよ」


「お主がそう考えるのは、ハーラルの事があるからではないか?」


ハーラルと聞いたとたん、フードの男の顔つきがかわった。


「おい、それ以上そいつの話をするな……」


再びフードの男の足元が黒く染まっていく。今にも攻撃をしかけてきそうだ。


「あやつは、強く、今のお主のように弱くなかったぞ……」


「僕が…… 弱い?」


「そうじゃ…… 今のお主はハーラルどころか、ワシの隣にいるこやつにも及ばんぞ」


嫌な矛先が自分に向くのがわかる。

へぇー、とフードの男の視線が俺に向いた。


「おっさん? その隣って俺しかいないんだけど?」


「お主以外にだれがおる?」


「………」


蛇に睨まれたカエルとはまさに今の俺のことだろう。フードの男に睨まれ、体が動かない。


「そうか…… やっぱりきみ強いんだね……」


足元の黒い影は渦をまいて、竜巻のようになっている。


「ちょ、ちょっとまてよ」


攻撃を覚悟したが、意外にも黒い竜巻はすぐに消えた。


「まぁ、いいや。君のことは僕も興味あるし、対戦は楽しみにとっておくよ」


フードの男はふっと鼻で笑い、元の位置に戻っていった。


「た、助かった………」


おっさんは、何事もなかったかのように口笛をふいている。


俺はとぼけているおっさんに「あとで、話がある」とだけ告げた。


「次は誰だ! 早く前に出ろ」


メラさんは苛立った様子で、生徒を睨み付けた。フードの男にたいする威嚇も少なからず感じられる。


「わ、わたし、いきます!」と声がした。見ると、恐竜のぬいぐるみがふわふわと女の子の背中を見守っていた。

読んでいただき、ありがとうございます!

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