タイムリターン
校舎の中にある保健室のような場所で俺は目を覚ました。
「お、気づいたか?」
「おっさん…… ここは……?」
「ここは魔法士官学校の中にある治療室じゃ、それにしてもようかったの。よくやった」
奇跡的に勝ったとはいえ、気分は最悪だった。その理由は1つしかない。
「それより……、あの話し本当なのか? ……」
「あの話?」
「志帆ちゃんのことだよ。俺が戦っている時におっさんが言ってたやつだ」
「ああ、あれか。本当じゃ……」
「はは、今度こそ完全にフラれちゃったな…… 」
「ただ、全てではない。伝えてなかった事がある」
「いいよ。これ以上は。傷つくだけだし……」
このおっさんのせいで、すでに取り返しのつかないレベルで傷ついている。
「桜田というおなごはお主が嫌いなわけではない。むしろ好きなんじゃ……」
「いいってだから。慰められると余計惨めになるだろ」
「いいから、きけ。矢鍋という男の父親はお主が好きなおなごの父親が働いてる会社の社長でな、言う通りにしないと父親をクビにすると脅しとったんじゃ」
「え? なんだよそれ…… 言う通りってなんだよ」
「矢鍋という小僧はなかなかの悪じゃぞ。自分と付き合わなければクビにすると言ってきたらしい」
「!?」
「おそらくじゃが、お主があのおなごと付き合っていると噂がながれたとき、矢鍋とか言う小僧に迫られ、それでとっさにお主に言い寄られているとでもいったんじゃろうな。可哀想に」
「それで……。許せない………。ちょっと待てよ。嫌ってるってのは?」
「そんなこと言うたかの? お主の闘志をあげるためじゃ、多分な」
悪びれる様子もなくおっさんは相変わらず髭を擦っている。
怒るきにもならない。
「助けに行ってやれ」
「え!?」
「タイムリターンじゃ」
「いや、でも…… どうすれば……」
「思ったまま、行動すればよい。今のお主なら大丈夫じゃろ」
「おっさん……」
「んじゃ、いくぞ?」
「ちょっとまて、魔法戦は? けがは?……」
体が光り、意識がなくなる。そして、自分の部屋で目を覚ました。
体の傷はなぜか消えていた。
時刻は8時を過ぎている。間違いない。あの日だ……
急がないと遅刻する時間でもある。
俺は学校に向かった。
教室を開けると視線が集まる。俺は一直線に志帆ちゃんのところへ向かう。
「昨日はごめん。でも俺諦めてないから、志帆ちゃんの事好きなんだ。だから、俺もっともっと頑張って自分に自信がもてたら、また告白するよ」
「おお!すげぇな!」と大声をだしたのは竹口だ。
志帆ちゃんが照れている。今度は魔法じゃなく、本当に顔を赤らめているのがわかり、こっちまで恥ずかしい。
「うん、わかった。待ってる」と志帆ちゃんは笑ってくれた。
「おい!てめえ、ふざけてんのか?」
怒声と共に矢鍋がこっちに向かってくる。
改めて見ると、ゼファルドの半分もない体つきだ。そのおかげか、恐怖心がなくなっていた。
「ふざけてないよ。変な噂が流れてるみたいだけど、昨日俺はフラれたんだ。それにお前には関係ないだろ?」とはっきりと言い返す。
「なっ、ぶっ殺す!」
矢鍋が拳を振りあげる。
ゼファルドの半分以下の圧力だ。
殴り方をよく知らない俺は、魔法戦と同じように、目をつぶりながら拳を前につきだした。
どうにでもなれと心で叫ぶ。
「うわぁぁ!」
俺の拳はおそらく、矢鍋の鼻に当たった。矢鍋はよろけるようにして膝をつく。
「この野郎…… ころす!」
睨みつけている矢鍋をここぞとばかりに見下ろす。
「いい加減にしろよ。お前も志帆ちゃんのこと好きならまたやり直して告白でもなんでもしろよ」
「な、何言ってんだ。俺が……」
「好きなんだろ? じゃあどっちが選ばれるか正々堂々と勝負しろよ。そこで、お前を選ぶようなら、俺は素直に身をひくよ」
「クソが……、ベラベラと調子にのって喋りやがって」
俺は矢鍋の胸ぐらをつかむ。
「うるせぇ!! 俺はお前と違って背も高くなければ、金持ちでもないし、スポーツもできない、喧嘩も強くない。今の時点でお前の方がめちゃくちゃ有利なんだよ!こんなにハンデあっても正々堂々できないのかよ」
「何言ってんだあいつ……。頭おかしくなったか?」と竹口は不安そうに見つめている。
矢鍋は目を反らして手を振りほどく。
「ちっ、気持ち悪い野郎だ……」
そういって矢鍋は教室から出ていった。
とりあえずはよかった、と安心する。運よく帰ってくれたからよかったが、矢鍋があのまま殴りかかってきていたら負けてたに違いない。
戻ろうと考えていると、よう!、と背後から背中を叩かれる。振り向くとぎょっとした。なぜなら話しかけてきた人物は、自分とは別世界の住人と思っていたやつだったからだ。
もしかすると、矢鍋よりも遠い世界の住人かもしれない。
背が高く、爽やかなルックスでスポーツ万能、性格は天然なところがあり、そのギャップが可愛いと女子からの人気も絶大。竹口がひそかにライバル視している男だ。
「え? おれ?」
「はは、他にだれがいるんだよ。やるじゃん、お前。俺矢鍋嫌いだったからスカッとしたよ」
「あ、ども」なぜか緊張する。
竹口意外の同級生の男と話したのは久しぶりだからだろうか。
「俺は、秀人。よろしくな」
秀人は手を差し出し、「う、うん。よろしく」と握手をした。
静まり返った教室に見計らったかのようなタイミングで教師が入ってくる。
俺を含めた数人が立っているのを見て「おー、どうした?お前ら席につけよ」と注意される。
「そっか、朝のホームルームまだだった……」
また後で話そうぜ、と秀人は席に戻っていった。
俺も席に座ると、竹口が手のひらを俺にむけて広角をつりあげていた。
「ん?どうした?」
「ハイタッチだ! かっこよかったよお前」
俺はありがとうと照れ臭く笑って竹口とハイタッチをかわす。
ハイタッチをして、竹口は固まった。
「まさか……」周囲を確認すると、やはりおっさんがいた。
「やったの!お主! ヒーローではないか」
「そんなんじゃないよ。でも、おっさんのおかげかもな……」
「戻るぞ」
「え?もう? ちょっとくらい余韻に浸らせろよ」
「うむ、わかった」と言っておっさんは、躊躇なく俺を異世界に飛ばした。
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