メイドが増えるようです
「おっ? 依頼主が死んだっぽいですね」
ジャックが父親の顔面を殴ったと同時に、ダンジョン内に強烈な振動が伝わった。
「≪はいこれでラスト。 ちょっ!? 今揺れるとっ!? にょわぁぁぁぁぁぁ!?!?≫」
「つ、つくるせんせーーーい!?!?!?!?」
モンスターに振り下ろしたその拳は地面の振動によって逸れ、主人公は地面に突き刺さった。
「おぉう……だ、大丈夫ですか?」
地面から足だけが出ているその様子に、裏切り者のアニーちゃんも流石に手助けをした模様。
「それじゃあボス部屋まで行きますか? もう依頼主も死んだことですし、敵対する気もありませんよ。 ……ありませんよ!? だからサンちゃんはその手を降ろしてっ!?」
「ちっ」
「まあまあ落ち着け落ち着け。 敵対しないって言ってるし、そもそも依頼主が死んだらしいから金も貰えないだろ。 裏切るメリットがないよな」
それを聞いて額から汗を流す人が約一名………
「あ、あの~ツクルさ~ん…やっぱり愛人にしてもらってもいいですかね~?」
「あ、間に合ってます」
「なんでぇぇぇぇぇぇ!!!!」
う~む哀れ。
「おぉ、こんな所に魔法陣が隠されてたのか」
「はぁぁぁぁ……はいここ乗ってくださぁい……私のお金ぇ…ボス部屋に移動しまぁす…私のお金ぇ」
「あにーうるさい」
そんなわけで砂の中に隠されていた魔法陣に乗ってボス部屋まで移動した3人だった。 あとアニーうるさい。
「お? 遅かったですねツクル先生。 それと悪かったなサン」
「え……? じゃ…じゃっく? もしかして!?」
転移してきたボス部屋の中心には、倒れている人型の何かとそれを見下ろすジャックがいた。 そしてジャックは2人を見ると、ニコリと笑いかけた。
「ほんとはこのダンジョンに入った時に親父のクソみたいな目線のせいで記憶が戻ったんだけどな。 親父に見られてる感覚がずっと有ったのと、そこのアニーとやらが居たんでな」
「あにー?」
「わ、私のせいですか!?」
「まぁ無事に記憶が戻ったなら良かった。 言っちゃなんだが、ジャックの父親には感謝だな。 理由はともかくそれが思い出すキッカケになったんだからな」
否定も出来ず、苦笑いをするジャックだった。
「それで、そいつがジャックの父親だったモノか?」
「そうですね。 まあ父親とも言いたくないクソ野郎でした。 嫉妬か何かでしょうけど、自分よりも魔法の才能が有ったガキの頃の俺に呪いをかけたうえで、今度は記憶喪失の所を狙って殺しに来るとか、親の所業ではないですね」
「依頼主ェ……」
ダンジョンが悪意を吸い取れるからこその弊害だな。 悪意を持ったダンジョンマスターがいても、周りの危機意識が薄いから気が付かない。 これぞまさにクソ仕様である。
「それじゃあジャックとサンは先に外に出ていてくれ。 俺はこいつと話すことがあるからな」
ジャックの父親の屍を片付け、ダンジョンの外へ出るゲートが開いたところで主人公はそう言った。
「……まあ了解しました。 一応気を付けてくださいね」
「は~い」
ジャックは少し顔を顰めるが、言えないこともあるのだろうと思ったのか、何も言わずにサンと共にゲートに乗っていった。
「え~~っと… あの~ 殺さないで頂けると有難いな~」
残されたアニーは恐怖で後ずさるが、もちろん主人公はそんなに直ぐに殺そうなんて考えていない。 それは最終手段なのだ。
「ラフィス」
「りょうかいですますたー」
「ぐえぇぇっ!?」
実体化したラフィスに前面からズダンッと地面に叩きつけられたアニーは、逃げ道を失い、絶望した表情をしている。
「アニー、お前ダンジョンについて知ってるよな?」
「は? え、えぇまあ。 といっても依頼主に聞いた分だけですけど。 原初のダンジョンマスターが率いる集会?とか呼ばれる集団によってこの世界は回っているとか、おそらく人類の英雄はダンジョン側の立場だろうとか自慢されましたね」
「「けいそつですね(軽率にもほどがあるだろ)…」」
困惑の表情と共に伝えられたその情報に頭を抱えそうになった主人公とラフィスだった。
「まあそれを聞いた時点で分かるとは思うが、お前にはその情報を黙っていてもらわなければいけない」
「まあそうでしょうね」
頷いたアニーを見て、主人公は指を3本あげる。
「3択だ。 ここで死ぬ。 契約をして喋れなくする。 メイドになるのどれかを選べ」
「「…………は?」」
言われた言葉が理解できなかったためか、アニーは……アニーとラフィスは冷たい目で主人公のことを見つめる。
「あ、すまん。 言い直すな。 ここで死ぬか、契約を結んでダンジョンについてしゃべれなくする、もしくはメイドになるかだ」
「「かわってねーよ!!!!」」
「まあ冗談だ。 俺としては殺すのもあれだし、契約はあまり信用していない。 それなら俺の家でメイドでもやらせてラフィスに見張っててもらおうというわけだ。」
真面目な顔でボケるな。 分かりづらい。
「最初からそう言ってくださいよ。 それならもちろんメイドになります」
「なります?」
「ひょえっ。 め、メイドをやらせていただきます!!」
上から放たれたラフィスの言葉と同時に首筋にヒヤッとしたものを押し付けられて、ちょっとちびりそうになったアニーであった。
「ち、ちびってないですよ!? ないですからね!!」
ちびってはないようである。
まあそういうわけで、主人公の家のメイドが一人増えるようだ。




