海中のダンジョン④
「ふぁ~~おはようごじゃいま~しゅ~」
「≪おはよう 起きたなら少し手伝ってもらってもいい?≫」
「あ~い」
翌日? 最初に起きてきたのはアニーだった。 流石の主人公も一晩中の戦闘と、現在も警戒でかかりっきりだったため、朝食を作る時間も無かった。 そのためアニーに朝食を作らせ、その間も主人公はモンスターたちを警戒していた。
「あの~? モンスターなんて来てませんけど?」
「≪……一晩中ぶちのめしてたら遂に来なくなった≫」
まあその警戒も意味がなかったようだが。 恐怖心のないモンスターたちも学習はするらしい。 勝てないものはどんなに数で押そうとも勝てないのだ。
「おはようございます」
「おはよ~~」
朝食が出来て少し待つとジャックとサンも起きて来た。 そこからは主人公のおかげでダンジョンの中とは思えないほどのゆったりとした朝を送った。
「そろそろ下に行きますか?」
「そうだな。 最終確認だが、全員いざという時は水中でも呼吸できるようにアイテムも持ったな?」
「「「はい(うん)」」」
「それじゃあ行こうか」
そうして4人はゆっくりと階段を降りていった。
警戒に警戒を重ねながら階段を降りた先は一つの小部屋になっていた。
「……ここで終わりか?」
「流石にそれはないでしょ」
「だんじょんのぼすもみてない」
絶対に何かあるだろうとその小部屋に足を踏み入れると……
ズズズズズズズ.........。
階段と扉を繋いでいた道が閉ざされた。
「いや~申し訳ありませんねお三方? これも依頼ですので許してください」
と同時にアニーがそう呟きながら、いつの間にか持っていたボタンを押すと、部屋の中心から魔法陣のようなものが展開され、部屋の中は光で埋め尽くされた。
「ようこそ、ツクルさん。 サンちゃん」
主人公とサン、それとアニーが転移した先は海の上にポツンと浮かぶ孤島。 2人がどれだけ見回しても、ジャックの姿はどこにもなかった。
「ジャックはどうした?」
主人公がそう聞くが、アニーはとぼけた様に言い返す。
「あれ? 驚かないんですか? 裏切ったんですよ私?」
「それはわかってた。 そもそも、あんなたいみんぐであらわれるひとをあやしまないほうがおかしい」
サンもアニーが裏切ると予想は立てていたようで、特に驚く様子はなかった。
「それに、商業国に来てからはあからさま過ぎだ。 ダンジョンに向かえと言わんばかりに誘導していただろ」
「ありゃりゃ。 ちょっと急ぎすぎましたかね~。 それでジャック君の居場所でしたっけ? 今頃対面しているころじゃないですか? 彼の父親と」
そういいながらアニーはパチンと指を鳴らした。
「ま、私はその間の時間稼ぎを任されているだけですので。 存分にお楽しみくださいってね」
同時に海から大量のモンスターが現れ、主人公とサンに向かって襲い掛かってきた。
「≪纏い≫」
「すこしだけほんきだそうか」
そこからは地獄のような光景が繰り広げられた。 モンスターにとっては。 モンスターにとってはね。
「ここは……? サン? ツクル先生?」
ジャックが一人で転移した場所は、いかにもボス部屋らしい場所。 主人公がいたら天神のダンジョンのパクリかと言い出すほどだ。
2人を心配したジャックがキョロキョロと周りを見渡すと、奥からコツコツと足音が聞こえて来た。
「久しぶりだな、ジャック」
「………どうしてここにいるのかな? 父さん」
現れたのはジャックの父親だった。
「お前なら分かるだろう? 俺が呪いをかけてやったお前なら」
「記憶を失っている今の内に殺すつもりかな? ツクル先生が未来の僕に教えたことは父さんが警戒するに値したんだね」
ジャックは時間もかけずに即答した。
「くくくっ、よく分かっているじゃないか。 本当に忌々しい男だよあいつは。 お前の呪いを外しもせずに本来よりも数段強くさせおった」
「ふふっ、それならツクル先生に感謝しないとね」
まだまだ余裕そうなジャックを見て、父親の方がむしろ焦りを覚え始めた。
「そのツクル先生とやらは来ないが、そんなに余裕を持っていいのか? 俺は今からお前のことを殺すというのに」
「ふふふっ、やってみればいいじゃないか」
最後まで余裕の表情のジャックに困惑しながらも、ここで躊躇ってあの男が来ては遅いと思ったのか、ジャックの父親は魔法を唱える。
「そうも早く死にたいのなら殺してやろう。 我が家計に伝わる極大魔法でな。 【極大魔法 スーパーノヴァ】」
ギュオッッ!!!!
その空間を貫くかのように放たれたその魔法は、着弾音すらなくその場に広がった。
「ふんっ、死んだか。 これでようやく面倒なガキが消え……」
それを横目にジャックの父親は踵を返しその場を離れようとした……
「どこ行くんだ親父?」
「なっ!?」
瞬間、魔法の中から死ぬはずだったジャックの声が聞こえた。
「ああ、そういえば親父が危険だと思ったのはこの魔法だよな。 そりゃそうだ。 撃てば勝てるはずのその極大魔法を利用されるんだからな。 【纏魔装身】」
「お前!! 記憶が!?」
自分が撃った極大魔法をその身に宿したジャックを見ながら、驚愕で顔を歪めた父親の姿を見たジャックはニヤリと笑った。
「ツクル先生とサンには悪いが、このダンジョンに入った時には戻ったぜ? お前のその気持ち悪い目線やアニーの目があったから話さなかっただけだ。 ……まあもうそんなことももう関係ないな。 形勢逆転と行こうか」
「あ……あぁ…………た、たすっ」
「おせぇよバーカ」
母親との約束通りにジャックの拳は父親の顔面を貫いた。 奇しくもその場所は、ジャックが帝国兵に貫かれた場所と同じ位置だった。




