転生者の正体
「……本当に戦時中なのか?」
「思ったより普通に生活しておるの」
「……国民が無事で喜びたいところなんだが…兵士の苦労を考えると……」
主人公たちの反応から分かるように、今いる場所は帝都の中。 搬入を手伝っている最中もバレないかとヒヤヒヤしていたのだが、実際に帝都の中に入ると戦時中なのにも関わらず、国民は普段通りの生活を送っているようだった。
「あはは、危機感が無さすぎると思いますよね。 ま、僕たちとしては動きやすくなるので助かりますがね」
なお、戦争に対する危機感は無いが、流石に全身黒タイツの変態には忌避感を覚えるらしい。 率先して道を空けてくれるので、歩きやすくはあるのだが。
「それでは今日はここに泊まってもらうことになります。 一応ですが、店員寮なのでうるさく(意味深)はしないようにお願いしますね? 数日後には城の内部に入れるタイミングがあるので、それまで待っていてください」
バカでかい店の隣にある店員寮まで案内された主人公たちは、その場で黒タイツと別れることとなった。 その後に店の方から絶叫が聞こえてきた気がするが、まさか商会の会頭である黒タイツが店員に騒がれたとかそんなわけないよな。
「帝都まで戻ってきて思ったんですが、やっぱり国民からすれば国のトップなんて誰でもいいんでしょうか」
寮の中で一旦落ち着いていると、ラファエルが話し始める。
「まあそうじゃろうな。 それこそ自分たちの生活が脅かされなければ誰でもいいのじゃろう」
「否定したいところなんだが…現状を見ている限りだとその通りだよな」
皇族の存在意義でも考えているのか、難しい顔をしているラファエルに主人公も問いかける。
「ラーちゃん自身はどうしたいんだ? 国のトップなんてそれで決まるんじゃないか? 善政を敷いて国民に好かれる王もいれば、悪政を敷いて滅ぼされる王もいる。 今までの皇族がどんなことをしていたのかなんて知らないけどな、トップが一時的に催眠にかけられても国民が生活に困らないぐらいには制度が整っていたんだろ?」
「ふふふっ、そう言われるとお父様も凄いことをしたように聞こえるのが不思議ですね」
主人公の適当な意見にクスリと笑うラファエルであった。 主人公のおかげで辛気臭い雰囲気も消えたようだ。
「それでは…行きましょうか」
数日後。 どうやら黒タイツの商会が転生者にアポを取ったようで、神妙な顔つきで商品を用意している黒タイツと共にお城へと向かった。
「……ここからは気を付けてください。 催眠に深くかかっている人が多くなるので、下手をすると目的の人物に会う前に追い出されますよ」
城の裏口から中に入る前に黒タイツにそう言われ、主人公とラファエルは気を引き締める。 ニコルは欠伸をしているので、いつも通りな模様。
そして案内された部屋は、豪華絢爛という4文字があってしまうほどの部屋だった。
「【あぁ、ようやくいらっしゃったの? 楽しみにしていたのよ。 あの有名な商会がどんな商品を取り扱っているのか】」
簾のようなものに隠れているのにも関わらず、吐き気を催す雰囲気を発するその言葉を聞いて……何故か主人公は既視感を覚えた。
「……(なんだ? 俺はこいつと会ったことがあるのか?)……。」
「遅れてしまい申し訳ございません。 私共も謁見を楽しみにしていたのですが、帝国だけに店を構えているわけではございませんので……」
黒タイツも少し顔をしかめながらも笑顔でそういうと、簾の向こうに商品が運ばれてきたらしい。
「【あらあら!? 中々いい物を取り扱っているじゃないの!? ……特に美容品に至っては日本よりも……。】」
「高評価をありがとうございます。 して、日本とは何でしょうか? 寡聞にして存じ上げないのですが?」
「【き、聞き間違いじゃないかしら? な、なんでもないわよ】」
転生者とバレたくないのか、少し焦りながらも簾の向こうで取り繕う。
「そうでございますか。 申し訳ございません。」
「【ふふ、気にしないでいいわよ。 そんなことは置いておいて、早速商談と行きましょうか。 あなた方はいくらでこの商品を降ろしてくれるのかしら?】」
何故か急いでいるような雰囲気で商談を進める様子に疑問を抱きながらも、黒タイツは懐から少し温い魔道具を取り出す。 そして立っている守衛を呼んで簾の向こうに渡してもらう。
「【…少し高価じゃないかしら?】」
「申し訳ございませんが、こちらも戦時中の道を無理やり通ってきている身。 これ以上値下げしてしまうと、私共の生活が……と、言いたいところなのですが、一つご相談があります。」
「【…? 言ってごらんなさい】」
「ずばり、お姿をご拝見できないかと思った次第でございます。 特に美容品などは一度だけでなく、次も私共の商品を使っていただくためです。 そうして下さればお値段も方も考えさせていただきます」
ちょっと無理やりすぎたか? と黒タイツは苦い顔をするが、言ってしまったものはどうしようもない。
「【う~ん。 まあいいわよ。 守衛さん、簾をあげてもらえるかしら?】」
そうして見えてきた転生者の姿は、主人公がよく知っている人物だった。
「巡美……さん?」
それは主人公と美羽が二人で牢屋にぶち込んだはずの……美羽の母親だった。
記念と称して書いた50話はここで生きてきた訳ですね。 正直分かりやすすぎたかなと少し反省中です。




