想定外
「へぶぅっ!!?」
全力で踏み込んだ足は地面に突き刺さり、その勢いで主人公は顔面から地面へとダイブした。 モンスターの方も想定していなかったようで、三体とも何だこいつ?といった顔で主人公の方を向いている。
「……も、もう一回やるか?…ククッ」
笑いをこらえながらもアランは言った。
「……/// やるに決まってるでしょ!!」
流石の主人公も恥ずかしかったようで、頬を赤く染めながらも今度は歩きながらモンスターに近づいていく。
ゆっくりと近づいたからか先手を取ったのはモンスターたちの方で、最初にラッシュバイソンが主人公の方に突撃してきた。
「おらぁ!!!」
そこに合わせるようにして主人公は持っている剣を振り上げ、力を込めて振り下ろした。
ドッパァァン!!
主人公が剣を振り下ろすと同時にラッシュバイソンの頭部が吹き飛んだ。
「Oh………? んぇ!?」
思っていたよりグロかったのか主人公は目をそらした。 しかしよく考えるとおかしい。何故、剣を振り下ろしたはずなのに頭部が"吹き飛んだ" その答えは手の中にあった。 手には剣の柄、それも握り潰された物しか残っていなかった。
「あ、あはは…は、は…」
もちろん剣は借り物であって主人公のものでは無い。 どう償えばいいのかを考えながらもアランの方を振り向く。
「……。 剣はいいからとりあえず前を向け。」
やはりこの主人公はアホなのだろうか? 1体倒したところでもう2体が残っていることを忘れているようだ。 アランに言われるがままに前を向くと
「(ポフッ)…わぁ可愛い……じゃねぇわ!!」
たまたま突っ込んできたホーンラビットを抱えてそのまま愛でる…ここはダンジョンなんだがなぁ。 一応自分で気づいたのかそのまま地面に叩きつける。
ゴパァァン!!
叩きつけられたホーンラビットは鮮血を辺りにまき散らしながら地面を穿ち、消し飛ぶ。 誰とは言わないが一撃男でも目指してるんだろうか。誰とは言わないが(え?ほぼ言ってるって?気にするな)
「う、うげぇ」
Q.モンスターが鮮血をまき散らしながら消し飛んだら目の前にいる主人公はどうなるのか。 A.血でぐちょぐちょ 臭そう。
「はぁー、お前がモンスターを倒すのは先に自分の力の把握をしてからだな。」
流石に時間の無駄だと悟ったのかサクッとドリームシープを倒したアランは主人公の傍までくる。
「少し我慢しろ、『浄化』」
「あっ、ちょっ、クフッ くすぐったい ふぇっ あっっ」
血で濡れた部分だけでなく、全身がくすぐられているような感触がする。
「ふう、これだけやりゃキレイになったろ」
その言葉の通りに、主人公の全身どころか装備まで新品に見えるほどにキレイになっていて、むしろ転生前よりキレイなまでありそうだ。
「シクシクシクシク ううっ、もうお嫁にいけない グスン」
「なにアホなこと言ってんだ」
そうだそうだ。お嫁じゃなくてお婿である。
え?そうじゃないって?……じゃ、じゃあ……お・か・ま?
うそうそうそうそ じょ、冗談だって 冗談だからその手を下ろせ いや、お、おろして下さ、あっちょっ待っ…アーーーー ~少々お待ち下さい~
「とりあえず今のお前の状態だがな、貴族の子供によくある養殖後と同じ状況になっている」
「養殖?」
サーモン美味しいよね。
「養殖ってのはダンジョンで高レベルの冒険者と一緒に安全にレベルを上げることだ。 これのメリットはある程度レベルを上げたうえでダンジョンに潜ることになるから戦闘時の危険度が減ることだな。もちろん低級のダンジョンでの話だが。 対してデメリットは自分の体の能力に処理が付いていかなくてさっきのお前みたいな状況に陥ることが多々ある。 他にもステータスが高いからこそ実力を過信し、難度が高いダンジョンに潜りそのまま…みたいな例もあったりする。 しかも最悪なことにお前相当ステータス高いだろ? 慣れるのに相当時間かかるぞ」
ちなみに戦闘経験を積めないってものデメリットになったりする。 簡単な例を挙げればマイ〇クラ〇トで始めたばかりの初心者がフルエンチャネザ〇イト装備でエ〇ドラやウィ〇ーと戦って勝てるか? 勝てないだろ?
「なるほど…」
≪付け加えるなら、ダンジョンマスターをするだけならば問題はなかったと思われます。基本的に安全な位置から指示をするのが仕事ですから。 神様もすぐにダンジョンから出るとは考えておらず、才能系の付与もしていなかったのかと≫
「(な、なるほどな)ち、ちなみにすぐにできる改善策があったり…」
「あるな」
「まぁないですよね…ん?」
「ある」
「あるの!?」
あるらしい。




